第244話 D-ランクの冒険者チーム
タウロ達『黒金の翼』は、全員D-ランクに昇格した。
ついに、それを表す銀のタグになった。
冒険者としてDランク帯は強さの証明だ。
なぜなら、Eランク帯で冒険者を引退する者は多い。
それだけ、Dランク帯への昇格には大きな壁があるのだ。
冒険者で一番多いのは一般レベルと呼ばれるEランク帯であり、その中で、一握りの才能溢れる冒険者が査定でDランク帯に上がれる。
熟練者が多いランク帯でもある事から、ここを目標にする者は多い。
そこに、タウロはわずか13歳で、到達してしまったのだ。
エアリスも今年でまだ成人したての16歳なので、支部長のクロエが昇格を渋ったのもわかるだろう。
ダンサス支部の将来有望なチームとはいえ、リーダーはまだ未成年である。
周囲からの妬み嫉みは相当なものになるはずだ。
クロエが渋ったのにはそんな理由もあった。
なので、クロエは敢えて、タウロ達の今回の昇格の理由を故意に流す事にした。
とある秘密の特殊クエストで戦果を上げた事でAランク帯チーム『金の鬣』、Bランク帯チーム『白夜』『絶影』、その他、他の支部のBランク帯冒険者チーム、そして、領主ダレーダー伯からの推薦があって、『黒金の翼』は昇格したという事を。
あまりに突拍子が無いと思われるレベルの噂に、ダンサス支部の冒険者達もどこまで信用していいかわからずにざわついた。
そもそも一流どころの冒険者達がこぞって昇格を推薦した事自体が驚きだし、そこに超一流の『金の鬣』の推薦は、嘘にしてはスケールが大きすぎた。
前衛二人が抜けて落ち目になり、やっと二人の新人が入ったばかりだけに、噂の元である支部長と、当の推薦した『白夜』と『絶影』のチームメンバーから直接聞いた者も、冗談としか思えなかった。
なので、すぐに噂は冗談として収まるのであった。
だが、数日後、ダレーダーの街の方から、
「一流の冒険者を集めて、暗殺ギルドの拠点討伐が密かに行われ、成功したらしい」
という噂がダンサスの村まで流れてくると、冒険者達は、
「これの事か!?」
とまた『黒金の翼』にまつわる噂が再燃した。
「『黒金』が、このクエストにEランク帯で唯一参加していたという事か?」
「流石にそれはないだろう。噂の通りの面子なら、本当にBランク帯のみだぞ?」
「確かに。いくらなんでもEランク帯だった『黒金』が入る余地ないぜ?」
と、主にEランク帯で『黒金の翼』を格下と見ていた連中は否定的な噂に終始した。
だが、一部の上位ランク帯冒険者の中には、『黒金の翼』を評価する者もいた。
「リーダーのタウロは、12、3歳とは思えない冷静沈着さがあるからな」
「ああ、オーガ討伐戦で、地味だが後衛で力を発揮していたし、あいつのポーション作りの技術はすげぇぞ?サポート的な参加なら十分ありえる」
「違うな。新しく入った前衛二人を誰も知らないが、実は冒険者なりたてらしいぞ。この短期間で、今のランクまで上がってきた事を考えるとタウロのサポート力よりも新人二人の実力によるところが大きいんだよきっと」
「そうなのか?まあ、実際にD-ランクになったんだ。実力は追々、証明されていくさ。」
上位ランクの冒険者達が、冷静な意見を言ってると、ひとりの冒険者が
「あの新人、どこかで見た気がするんだよな…。いや、聞いた事がある特徴に……」
と、口にした。
「どっちだよ?あの美人のねぇちゃんの方か?」
「違う。大剣持ちの方だよ。確か俺の傭兵時代に……」
「そういやぁお前、数年前まで傭兵だったな。」
「…俺の記憶が正しければ、あの男、傭兵の間で有名な『黒衣の赤鬼』と呼ばれていた奴かもしれない」
「『黒衣の赤鬼』?確かに、全身黒色の恰好に赤い髪だな。でも、そういう有名人?の恰好、ハッタリで真似する奴いるだろ絶対」
「まあな。俺も当時、少しでも契約料を上げさせようと、かなりハッタリかましてたっけ」
「その有名人にあやかろうする奴もいるだろうよ。そもそも、そんな奴が冒険者になって、それも子供の下にわざわざ付くかよ」
「確かにそうだな。ははは!」
ギルド内の会話をクエストを選んでいたタウロは盗み聞きしていた。
情報は大切なので特に上位の冒険者の会話は、タウロも普段から聞き耳を立てている事が多い。
それにしても、噂が本当ならアンクはそちらの業界では有名人なのかもしれない。
道理で腕が立つわけだ。
納得するタウロだったが、アンクは聞こえていないのか、聞こえないフリをしているのか顔色1つ変えない。
「リーダー。今日は無難にオーク討伐クエストでいいかもな。こっちのよりは日帰りでやれそうだしよ」
アンクが張り出されているオーク討伐とハーピー討伐のクエストを比べて言った。
確かに、近隣のものでD-のクエストには妥当なクエストだ。
「オークか、いいな!『小人の宿屋』の女将も新鮮なお肉を届ければ喜ぶだろうし!」
ラグーネも賛成の様だ。
「ちょっとラグーネ。とんかつ中心でものを考えないの」
エアリスは、ラグーネの食い意地を注意する。
「じゃあ、このオーク退治にするね」
タウロは、その場を仕切ると普段通り受付にクエストの手続きをやりに向かうのだった。
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