第234話 村に戻ると急展開

 刺客の村の側で一晩を明かしたタウロ達一行は、ダンサスの村に戻る事にした。


 この依頼を出した行商人自体も暗殺ギルドの人間だった可能性が出てきた。


 一見すると普通の行商人にしか見えなかったのだが、全てが演技だったとしたらかなりの食わせ者だった事になる。


「完全に騙されたな。俺の『眼』で、見抜けなかったとは…、さすが悪名高い暗殺ギルドだ」


「…多分、素人を雇っていたのかもしれないね。本当の行商人に詳しく説明せず、依頼主として僕がかかるのを待っていたのかもしれない」


「では、私達が依頼を受けに来るまで他の者なら何かしら理由をつけて断るつもりだったのかもしれないな…、私が止めていれば!くっ、殺せ!」


 まんまと敵の罠に嵌り、恩人であり、仲間であるタウロを死なせるところだった事を盾役としてラグーネは恥じたのだった。


「まあまあ、僕が進んでこの依頼を受けたのが悪いんだよ。きっと敵は僕が珍しい依頼なら多少安くても引き受けると分析してたのかもしれない」


「そうよ、ラグーネ。敵はタウロを分析して用意周到に今回の罠を用意していたのだとしたら仕方がないわ。結果的にこうして無事タウロも生き返ったのだから、良しとしましょう!」


 エアリスはラグーネを励ました。


「…それにしてもあの『範囲即死呪法』?ってやつはヤバいな。あの靄に覆われた範囲の動植物は完全に死に絶えてたぞ。リーダーでないと生き残る事はできなかっただろうな」


「竜人族の村でもあれを使えるのはごくわずかだと思う。まさか年端もいかぬ少年が使えるとはな…」


 ラグーネが暗殺ギルドの修行に感心してイメージを膨らませた様だ。


「いやいや、ラグーネ。君が何を想像してるかわからないけど、今回のものは大きな魔石と呪殺石、そして、術者の命をかけた特殊な方法で出来た事で、竜人族の人が単体で唱える様な事、僕達人族レベルではできないからね?」


「そうなのか!?私はてっきり竜人族の修行に似た事をして身に付けたのとばかり…。そうか…、違う方法もあるのだな。だが、命を賭けるとは…」


「そうだな。死んだらどうしようもないのにな」


 命を賭して任務を遂行しようとする暗殺ギルドの教えと、敵をいかに多く倒して報酬を貰い、生き残り続ける事が仕事だったアンクにしてみると死生観は真逆のところにあった。


「子供の内からそういう思想を植え付けられたんだろうね」


 タウロはため息を吐く。

 死んだ少年は自分と変わらない歳だった。

 自分は前世の記憶があるから年齢以上に経験と知識があるが、少年にとっては教えられた事が全てで彼の世界だったのだ。


 病気であった事を考えると、何も出来ない自分が役に立てる機会を与えられたと思わされていたのかもしれない。


 もし、そうなら暗殺ギルドは許せない。

 それに自分が助かった事を知られれば、また、狙われる可能性がある。


 一度、ダンサスの村に戻ったら、今後の事を考えた方が良いかもしれないと思うタウロであった。




 ダンサスの村に戻ると、冒険者ギルドで支部長クロエに報告した。


「暗殺ギルドの罠だったの!?…みんな無事でよかったわ。早速だけど詳しい事を教えて頂戴」


 タウロ達は支部長室で、事の顛末を詳細に語った。


「──そうだったのね…。実はここだけの話、さっきうちの上位の冒険者のみに指名依頼がかかったのだけど、それがダレーダー領内の暗殺ギルド支部殲滅作戦なの。今回、ダレーダー伯爵が狙われた事で、伯爵本人が依頼主になってるわ」


「暗殺ギルドの支部が、このダレーダー領内にあるんですか!?」


 タウロも予想外の情報に驚いた。


「そうみたい。今回、ダレーダー伯の精鋭部隊と、上位冒険者のみで極秘裏に動く事で先手を取ろうとしてたのだけど、タウロ君達の情報通りなら、そんな危険な呪法を使われたらこちら側が全滅させられるところだったわ…。私の権限でお願いしたいのだけど、チーム『黒金の翼』もこの作戦に参加してくれない?その呪法、聞く通りならエアリスちゃんの結界魔法が有効そうだし、実際に暗殺者に遭遇して退散させているタウロ君の経験は貴重よ。もちろん、無理をさせる気はないから、安心して。うちのダンサス支部のNO.2のB-チーム『絶影』を護衛に付けるから」


「いえ、エアリスの護衛は僕達で行うので作戦遂行の為に『絶影』さんはそちらに回して下さい。それにうちのアンクとラグーネもそれくらいの実力はあると思うので」


 タウロは、支部長クロエにそう答えて断ると、仲間を誇った。


「おいおい、リーダー。煽てても何も出てこないぜ?」


 と、ちょっと嬉しそうなアンク。


「も、もちろん、エアリスの護衛は私に任せろ!…はっ!…煽てておいて私の体が目的ではないよな!?くっ殺せ!」


 と、嬉しさにいつもの妄想と口癖を言うラグーネであった。


 …大丈夫、だよね?


 そんな煽てに弱そうな二人に苦笑いしてちょっと心配になるタウロであった。

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