第216話 疑念を持たれる
ダンサスの村への帰郷当日の朝。
そこにはなぜか、ダレーダー伯爵の腹心の男性が立てた使者と護衛を名乗る二人が居て、同行する事になった。
ダレーダー伯爵の腹心から、帰郷ついでに直接部下の護衛も頼むとお願いされた上、朝一番で冒険者ギルドからも指名依頼としてお願いされたのでは断れる雰囲気ではない。
逆に断れば余計な疑いを持たれるだろう。
というか、もう、持たれてるのかもしれない。
昨日の茶番劇でタウロがリーダーである事を隠した事で、あらぬ疑念を持たれ、ダレーダー伯爵暗殺未遂事件に偶然を装い、何か関係しているのではと思われた可能性がある。
呪い返しの件も詳しくは言ってないので、さらに疑惑が持たれたのかもしれない。
タウロとしては、自分の浅慮な小細工で疑念を持たれた様なので後悔し始めていた。
そんな訳で、まさに急遽であり、タウロとしてはこの使者には何か別の意図を感じずにはいられなかった。
使者を含む二人は、その気配からダンサスの村までわざわざ護衛しなくてもいい程に腕利きと思われた。
ダンサスの村までの帰り道では、この二人が交互にタウロ達に色々と話を聞いて来た。
今回の事件の事はもちろん、『黒金の翼』は結成してどれくらいなのか、短いがその前はみんな何をしていたのかなど、個人の経歴にまで踏み込んできたので、アンクがあからさまに嫌な顔をした。
「護衛は引き受けたが、質問に答える契約は結んでないぞ?何を知りたいのか知らんが、俺達冒険者の間でも余計な詮索はしないのがルールだ。お宅らに答える義理は無いぜ?」
一番冒険者として短いアンクが言うのは少し笑えるが、そうはっきり答えると、使者の二人も流石に口を閉じた。
エアリスも侯爵の娘なので、余計な詮索をされて騒がれたくないのは一緒だった。
なのでアンクの言う事に頷いていた。
タウロはよくよく考えるとうちのメンバーはみんな訳ありだから、一度疑問を持たれると怪しく思われても仕方がないのかもしれないと思うのだった。
だが、それがダレーダー伯爵相手となると事情が変わってくる。
これは、ちゃんと、疑いを晴らす必要がありそうだった。
ダンサスの村に夕方ごろ到着すると、使者二人に『憩い亭』を紹介し、タウロ達は冒険者ギルドに報告に向かった。
ギルドのロビーの片隅では、依頼主であるリリョウがじっと待っていた。
タウロ達が室内に入ってくるのに気づくと駆け寄ってくる。
「みなさん、解決出来たのですね!?」
タウロ達の顔を見てリリョウはホッとした顔を見せた。
タウロはみんなを代表してリリョウに今回の事件の全容を報告した。
ダレーダー伯爵暗殺未遂事件は極秘だが、リリョウさんにはそれを知る権利がある。
「……そんな事が!?……父は巻き込まれたんですね……。でも、仇を取って頂きありがとうございます!みなさんに依頼を受けて貰えて良かったです……」
リリョウは静かに涙を流すとタウロ達に感謝するのだった。
「あ、これは、ダレーダー伯爵からの見舞金です。それと、明日、ダレーダー伯爵の使者がリリョウさん宅に伺うと思うので、今日は早く帰ってお母さんに報告して上げて下さい」
タウロが、泣くリリョウに声を掛けるとリリョウは頷き、改めてお礼を言うと母親に報告する為に自宅に帰っていくのだった。
「これで、一件落着と言いたいけど、ダレーダー伯爵の疑いを解かないと余計なトラブルの原因になるかもよ」
エアリスが、タウロの痛いところを突いた。
「だね。これは僕のせいだから、この後、使者さん達に会って正直に話してくるよ」
タウロは苦笑いすると、エアリスに答えるのだった。
タウロが『憩い亭』の酒場に行くと、伯爵の使者達は地元の冒険者にお酒を奢って自分達『黒金の翼』について情報を集めていた。
案の定、自分達は疑われてる様だ。
使者達にタウロが後ろから声を掛けると、二人はビクッとした。
「お、おう、これはこれは……。どうされましたリーダ殿?私達にご用ですか?」
用があるのはそっちもでしょ?と、思うタウロであったが、間違った報告を伯爵にされて最悪、刺客の仲間と思われても嫌なので使者達の向かい側に座ると、全てを話し始めた。
使者達はタウロの言う事が突拍子もない話と思えた様で、
「あなたが、タウロ殿で我々の主にリバーシを教えたと?ははは……。それはまた、信じがたい話ですな」
という反応を示した。
タウロの顔を知るダレーダー伯爵本人ならまだしも、他人には信じがたい話だろう。
この感じだと変な報告をされそうだが、こちらは事実を伝えたのでこれ以上は言うべき事は無い。
あとはこの二人の報告を聞いてダレーダー伯爵がどう判断するか委ねるしかないと思いタウロは『憩い亭』を後にするのだった。
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