第187話 不穏な流れ
ラグーネは、有能な戦士だった。
タウロが譲った薬草類の量は多かったので、持って帰るには嵩張るから籠を用意しようとしたのだが、ラグーネはそれを断った。
「私もマジック収納を持っているから大丈夫だ」
そう言うと目の前にあった薬草類は一瞬で片づけてしまった。
「凄い!ラグーネって、貴重スキルを複数も持ってるのね!」
エアリスは感心した。
「これでも、竜人族の村では優秀な戦士として信頼はあるからな。だからこそ、今回、流行り病の治療方法を探す旅の代表の一人に選ばれたのだ!」
ラグーネは、胸を張ってその栄誉を誇って見せた。
やはり、竜人族は村を出ること自体、珍しい事の様だ。
外出自体が許可制なのかもしれない。
どうりで世間での竜人族の遭遇例が少ないわけだ。
「その竜人族の村までかなり遠そうですが、大丈夫ですか?」
タウロは素直に心配した。
ラグーネが言う通りにアンタス山脈地帯のどこかなら、ここから徒歩だと一か月以上はかかるはずだ。
折角、薬を持ち帰っても手遅れの場合もある。
「ここまで来るのには時間がかかったが、帰るだけなら私はあっという間だから、心配しないでくれ。それでは、仲間達を一刻も早く助けたいから失礼する!」
ラグーネはそう言って、周囲を見渡すと、アンタス山脈とは逆の南の方向にあっという間に走っていくのだった。
「「ラグーネさん、そっち南だから!」」
タウロとエアリスが慌てて声をかけたが、聞こえていないのかもう、消えてしまうのだった。
「……極度の方向音痴なのかな?」
「凄く心配だけど、大丈夫なのかしら……」
二人とも心配だけが残る出会いと別れだったが、もう、夕暮れが迫っていたのでダンサスの村に戻るのであった。
夕方の忙しい時間帯。
いつも通り、冒険者ギルドダンサス支部長のクロエも受付に入っていた。
「二人でこんなにゴブリンを討伐してきたの!?」
「凄いでしょ?途中、人助けをしてなかったらもっと討伐できたと思うわ」
タウロと二人での討伐は初めてだったのでエアリスが自慢げだった。
「人助け?まあ、これなら、二人ともE+に昇格しても問題なさそうね」
「出来るの昇格!?」
エアリスがクロエの言葉に食いつく。
「ええ。二人とも年齢が年齢だから心配だったのだけど、二人でこれだけやれるなら、問題ないわ」
「やったー!これで、『黒金の翼』全員がランクE+ね!」
エアリスはタウロの手を取ると喜んだ。
「あー、それなんだけど……。さっきシン君とルメヤ君がレンとユウの二人組と一緒にクエストを完了報告してきたから、D-ランクに昇格させたのよ」
「「え?」」
「今日の朝、表で揉めたじゃない?あの二人組、『漆黒の剣』との臨時チームでのクエスト断られて、シン君とルメヤ君に泣きついたみたいなのだけど、四人でクエスト受注してさっき完了報告があったの。あの二人は少し性格に問題あるけど実力はあるからね。そして、シン君とルメヤ君と組むと相性がいいのか結果もちゃんと残してるから……」
「シンとルメヤは、それで納得したの!?」
エアリスは信じられないとばかりにクロエに聞いた。
「最初、渋ってたんだけどね。タウロ君とエアリスちゃんを待つべきだって。でも、Dランク帯への昇格は、いつでも上がれるものではないから今のうちに上がっておくべきとあの二人組に説得されてたわ」
「……あの二人……!」
エアリスは静かに怒りをにじませた。
「まあまあ、エアリス。二人にとってあの二人組は彼女だし、優先順位もあるだろうから、怒るのは止めて上げて」
「でも……!」
「シンとルメヤの判断を尊重しよう。二人にとってDランク帯への昇格は目標の1つだったみたいだし、いいんじゃない?」
エアリスはまだ、納得してない感じであったが、自分の彼女の意見を優先するのも悪い事じゃない。
それにずっと留守にしてたのは自分達だ。
その間、残されて頑張っていたシンとルメヤの成果がDランク帯への昇格なので祝福すべきだろう。
二人組との相性も良いらしいし、これは真剣にシンとルメヤの事を考えるとチーム解散も考えた方がいいのかもしれない。
シンとルメヤは自分達と、彼女達との間で板挟みになっている、今の状況は楽しい事ではないはずだ。
あの二人は良い人過ぎるくらいだから、こちらから申し出た方がいいだろう。
タウロは、この考えはエアリスにはまだ、話さない事にした。
今、話すと拗れそうだ。
エアリスを宥めると、ギルドを出て家路に就くのであった。
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