第173話 ダンジョンに潜る

 食事を終えて一息ついた一行は、第二の城門を通過した。


 この城門を通り過ぎると、周囲は一気に雰囲気が変わる。


 民家は無くなり、兵士達しかおらず、訓練などが行われている為空気がピリピリとしている。


「ここが、このダンジョン『バビロン』を守り、監視している中枢になるぞ」


 タイチが説明してくれる。


「じゃあ、あの城門を通過すると、ダンジョンですか?」


 タウロが、さらに先に見える城門を指さした。


「いや、あれの先にもまだ、城門がある。その先にダンジョンの入り口がある神殿が建っているんだ」


 タイチが説明している間に、隊長のツヨークが城門に向かいその傍で手続きをしている。

 そして、それが終わったのだろう。

 こちらに手招きした。


「それじゃ行こうか」


 タイチが促すと一行はまた一つ城門を通過するのだった。



 通過した先の城門でも確認後、通過するとその先には、大きな神殿がひとつ、中心に建っていた。

 周囲には石畳がびっしり敷き詰められ、植物は一切ない。


「この神殿は、いつできた物なんですか?」


「さあ、千年経ってるとか聞いた事があるな。あ、この神殿は人工物じゃないからな?これも、『バビロン』の一部らしい」


「そうなんですか!?」


「だから、風化する事なくずっとこの地にあるのよ」


 エアリスがここぞとばかりに説明した。


「じゃあ、この石畳も?」


 神殿の周囲にびっしりと敷き詰められた石畳が気になったタウロはタイチに聞いた。


「これは、人工物さ。昔、植物系の魔物がダンジョンから溢れ出た時、周囲に生えていた植物を操って人を襲ったとかでそれ以後、石畳が敷き詰められたらしい」


 タイチが、そこが気になるのか、と笑って応えた。


 タウロとしてはダンジョンが大地も侵食する恐れがあるのかもと思ったのだが、それは杞憂だったようだ。


「ダンジョンに入るぞ」


 先頭を進むツヨーク隊長が、神殿の階段に足をかけた。


 タウロ達もその後に続いて神殿の階段を上がって神殿内に入っていく。

 一応、もう、ダンジョンの中という事になるようだ。

 神殿内は全体的に淡く光っている。

 タウロが出来立てのダンジョンで経験した様に、壁や天井床の石畳が光を発しているのだ。


 先に進むと、警備の兵士達が立っていて、奥に開いた扉があり、下りの階段が見えた。


「ここを降りたら魔物が出るから気をつけて」


 タイチが、タウロとエアリスに注意を促す。


 二人は頷くと階段を降りて行くのだった。



 階段を下りるとそこは、広さがわからない迷路だった。


 路を進み、広いスペースに出ると路が分かれている、その繰り返しだ。


 ツヨーク隊長は先頭を迷いなく進みながら一行を先導する。


 道順を完璧に覚えているらしい。


「あ、この先に魔物がいるみたいです」


 タウロがいち早く気づいた。


「ほう。『気配察知』か。それもかなり熟練度が高いな」


 ツヨーク隊長がタウロを見ずに感心してみせた。


 ツヨークはスッと前に出るとこちらに向かってきた三体の骸骨スケルトンを魔法を付与した槍で一閃する。

 無駄の無い洗練された動きだ。


 これは自分が出る場面はないな、と感心するタウロだった。


 その後も、迷路を進み続け、遭遇する骸骨は護衛の騎士達によって蹴散らされていった。


 タウロはただ歩くだけなので手持無沙汰感があったが、一応、『気配察知』は常に使用していた。


 ふと壁の向こう側に邪悪な気配を感じた。


 向こう側に、骸骨でもいるのかな?それにしては今まで感じた事が無い気配…。


 そう思っていると、壁から半透明な黒い影が現れた。


 その現れた壁の側にいた一人の護衛の騎士にスーッと近づいて触れると壁の向こう側に戻って行った。


「みんな気をつけろ、幽霊ゴーストだ」


 タイチが幽霊が消えた辺りに剣を向ける。


「チッ!呪いをかけて行きやがった!」


 幽霊に触られた護衛の騎士は舌打ちする。

 ステータス低下の呪いは、魔法『浄化』で治すか、教会などの聖地で過ごして呪いを解くなどの方法があるが、治療するまでは急なステータスの低下で、一時的な倦怠感などに襲われる。


「今回、『浄化』持ちの奴がいないから、戻ってから治療だな」


 タイチが呪いを受けた騎士に声をかけた。


 そこにタウロは駆け寄ると魔法『浄化』を唱えた。


 淡い光と共に騎士の呪いは霧散した。


「「「え?」」」


 一同はただただ驚いた。

 目の前の護衛対象である少年が上位魔法である『浄化』を唱えたのだ、驚かずにはいられない。


 さらに、タウロは壁沿いに歩き出すと突然壁から透けて現れた幽霊に小剣で斬りつけると幽霊を退治してみせたのだった。


「こいつは凄いぜ!」


 侯爵の娘の護衛と聞いていたのでその連れの少年の事は当てにしていなかったのだが、ただ者じゃない事に護衛の騎士達は素直にまた、驚くのであった。

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