第172話 ダンジョンに潜る前

 王都から北に半日。


 国内最大級のダンジョン『バビロン』は、厳重に二重三重の城壁に物々しく囲まれ、その城門も固く閉ざされていて、来るものを全て拒んでいるかのようであった。


「王都に勝るとも劣らない程、高い城壁ですね……」


 タウロは城門前で見上げながら言った。


「結界ももの凄く厳重に幾重も張ってるみたいね、それにとっても強力みたい」


 エアリスもタウロと一緒に横で見上げて感心しながら言った。


「ダンジョンは、眠っているお宝も多いから侵入して一攫千金を狙う輩もいるからな。あと、ダンジョンから魔物が大量に沸く事もあるから、厳重なんだ」


 今回の副隊長であるタイチが、説明してくれた。


「ダンジョンからですか?」


「そうよ。魔物大量発生スタンピード。数十年に一度とかの割合で、ダンジョンから魔物が大量発生する事があるから、守りを固めてるって生前お父様が言ってたわ」


 タイチに代わってエアリスが説明した。


「詳しいな流石に。……そう、この外の城壁は外からの侵入者に備えてだが、中の城壁は全て、ダンジョンからの魔物に備えてのものなんだ。自然界でも魔物大量発生はたまにあるが、ダンジョンでも同じ事象が起きる事があるんだよ」


 タウロが、タイチとエアリスから説明を受けていると、大きく分厚い城門が鈍い音をたてながら開き始めた。


「おお!大迫力ですね」


 王都のものより、分厚いその城門は少し開くと止まった。


「この厚さだからね、全部は滅多に開かないんだ。入るよ」


 ツヨーク隊長が、先頭で城門の隙間に入っていくとそれにタウロとエアリスがタイチに促されて続く、他の護衛も後に続いた。


 城門を潜ると、大きな整備された道が、次の城壁までまっすぐ続いていた。


 その道の側には建物が並んでいて兵士たちの宿舎や、兵士を相手にする各種店舗の他に酒場も併設してあるようだ。


 ちょっとした街レベルだが、住人はほぼすべて兵士とその家族だ。


「一度、ここで昼食を取ってそれからダンジョンに入ろう」


 隊長のツヨークが一行に提案というか指示をした。


「わかりました」


 タウロはエアリスに頷きながら返事をした。


 一行は兵士達が利用する小料理屋の一つに入ると食事を済ませる事にした。


 食事の間に聞いた話では、今回潜るダンジョンの一層の目的地である部屋は、二層へ続く階段の側にあるのでそこまで行くのには数時間はかかるらしい。

 一層の魔物は大したことが無いという事でもなく、少し特殊な魔物が現れるので準備が必要らしい。

 準備無しで潜ると苦戦するという事だった。


 説明してくれたタイチは、タウロの小剣を見ると、


「君の武器なら全く問題ないな」


 と、太鼓判を押してくれた。


「?」


 タイチはそれ以上は説明してくれず、潜ってからのお楽しみと言ってたので、タウロは想像するしかなかったが、自分の小剣には光(聖)属性が付与されている。

 そういう事かと、タウロは何となく理解した。


「私は何が一層にいるか知ってるわよ。タウロ知りたい?」


 エアリスは勿体ぶっていたが、


「もしかして、幽霊ゴーストとか、骸骨スケルトンかな?」


 と、タウロが答えると、がっくりと肩を落とした。


「なんで、わかったの!?勘の良すぎる子は嫌われるわよ?」


 エアリスはタウロに教えて上げたかったのだが、あっさり当てられたので不満を口にした。


「驚いた!骸骨がほとんどだが、ごくたまに幽霊も出るんだよ。よくわかったな。ちなみに、幽霊は直接的な攻撃はしてこないが、たまにステータス低下の呪いをかける事があるからこれが何気に厄介なんだ気をつけろよ」


 タイチが幽霊が出る事まで当てたので素直に驚いてみせた。


「いえ、タイチさんがヒントを出してくれたからです。僕の小剣に魔法属性が付与されてる事に気づいたから問題ないと言ってくれたんでしょ?」


「正解だ。幽霊も骸骨も魔法、もしくは魔法付与された武器には弱いからな。俺がわかったのはスキルによる恩恵からなんだ。だが、不思議とタウロ君の武器に関しては何かまではわからない。一つ聞いておくが、タウロ君の小剣には何属性が付与されてるんだい?闇属性以外なら効果があるぞ」


「えっと、光(聖)属性です」


「……これは驚いた。一番貴重な属性じゃないか……。余程の名工が作ったものだろうな。ちなみに作者とかはわかるかい?」


「サイーシの街に住む、アンガスというドワーフの鍛冶師です」


「ああ!今、巷で話題になってる新進気鋭の天才鍛冶師か!……なるほど、噂以上だな。俺も今度、休みを取ってその鍛冶師の元に剣を作って貰いに行くとしよう」


 アンガスがそんなに有名になっている事に驚き嬉しかったが、アンガスの容貌を思い出すと、新進気鋭というよりは熟練鍛冶師だけど……、と思うタウロであった。

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