第170話 二号店

 ガーフィッシュ商会の貴賓室。


 代表のマーダイと商品についての話し合いが一段落した。


「じゃあ、あとは、販売を待つだけですね」


「そうなりますな。あ、これはひとつ提案なんですが……」


 マーダイが、また、商人の顔になった。


「サイーシの街に出しているタウロ殿の名義のカレー屋。あれ、王都に二号店を作る気はありませんか?」


「急ですね?」


「いえ、一応、サイーシ支部のパウロから提案はずっとあったんですよ。しかし、あのお店はタウロ殿本人名義ですからどうしたものかと……」


 マーダイはタウロが自分の名前が前面に出るのを嫌がる為、ここまでこの話を出そうとしていなかったのだ。


「うーん…。あちらのお店は信用できる冒険者ギルドに運営を任せているから、成り立ってますが、こちらはそういうわけには……」


「もちろん、こっちに出して貰えるのであれば、うちが責任をもって管理します。カレーは、今、サイーシの街の名物料理として、確固たる人気があります。私も食べさせて貰いましたが、あれは美味い!王都にあるといつでも食べられて助か……じゃない、必ず人気が出ますよ!」


 あ、今、この人、私情が思いっきり入ってた。


 タウロは内心苦笑いしたが、ガーフィッシュ商会になら、管理を任せられる。


「ここで、大々的に有名にして、全国に支店を展開していく事も視野にいれてみませんか!?」


 どうやら、マーダイは本気の様だ。


 全国展開は大風呂敷を広げ過ぎだが、ダンサスの村にも支店が出来ると自分も嬉しい。


 だが、先立つ物はお金である。


 今、タウロの手元にはあまりお金が無い。

 貴族の面会に使い過ぎた。

 結果的に、王家が後見人に付いた事でその努力も無駄になった形だったので、今はお金についてあんまり考えたくないのが心情だった。

 だが、エアリスの顔見せにもなって、ヴァンダイン家の騒動に対して首を突っ込んできたり、敵対しないでくれたので、必要経費としてばら撒いて良かったと思いたい。


「では、マーダイさん。……王都に二号店を作る為の資金を貸して下さい」


 タウロは一番言いたくない事を告げた。

 前世では借金はした事が無かった。

 だが、こちらに来て、ついに二度目の借金だ。

 最初の借金は、モーブさん。

 これは、冒険者になる為の登録に必要なお金だった。

 生きる為に必要だったのであれはどうしても仕方がなかったが、人生、借金しない生き方が安全と思っていただけに、自分から申し出るという事はある意味、自分の禁忌に触れた瞬間であった。


「え、うちが申し出たのですから、資金はうちが出しますよ?」


「いえ、1号店は自分でお金を出したので、自分の名義にしました。二号店も自分の責任で出したいと思います。といっても、管理は任せる事になりますが、資金を貸して下さい」


「……わかりました。貸します。と言っても、私の予想ではタウロ殿は借金してもすぐ返してくれる事になると思いますよ?わはは!」


 マーダイは意味ありげにいうと笑うのだった。


 タウロはどういう意味かイマイチわからなかったが、ちゃんと借りた物は返すつもりなのでマーダイから大金を借りる事にするのだった。


 そうなると、その日の内にマーダイに良い店舗物件を紹介して貰い、下見しすぐに契約した。

 今回は買い取らず賃貸で勝負だ。


 さらに改装工事も自分でやる事にした。


 資金はガーフィッシュ商会に頼めばいくらでも出てくるが、それはつまり自分の借金が増える事を意味する。

 なので、自分でやれる事は自分でやる事にしたのだ。


 数日後、タウロはひとりで改装工事をやり遂げ、その出来に、店舗を貸したオーナーが驚きのあまり自分の家の内装を依頼してくるのだがこれは丁重にお断りした。


 そして、勝負となるメニューはサイーシ店と同じにした。


 将来全国展開するかどうかはわからないが、共通メニューで勝負していく。

 将来的にはご当地メニュー、もしくは、ご当地トッピングは有りだが。


 あ、ダンサスの村なら、名物のとんかつと合わせてカツカレーが可能じゃん!


 タウロはこれに気づいた段階でダンサスの村に三号店を作る事を決意するのであった。

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