第168話 研究者との面会
商談の翌日。
ダンジョン研究の第一人者シャーガと面会する事になった。
あちらは忙しい様なのでこちらからシャーガの職場である研究所に赴いた。
「ようこそ、おいで下さいましたタウロ殿!」
四角帽を被った紫色の装束に眼鏡をかけた痩せている男性がタウロを研究室の貴賓室で出迎えた。
「お久しぶりです、シャーガさん。まずは、コノーエン伯爵をご紹介頂きありがとうございました。おかげ様で命を拾う場面が多くありました」
「いえいえ。コノーエン伯爵から聞いたかもしれませんが、伯爵はヴァンダイン侯爵の失踪には忸怩たる思いがあるようでしたから、伯爵の気持ちを楽にする為でもあったんですよ。あの時は、急遽行く事が決まった第二王子の護衛の為、普段ダンジョン調査の時に警備を任せていた騎士ではなく、近衛騎士が引き受ける事になり、慣れないダンジョンで自分達に不手際があったからヴァンダイン侯爵の失踪を防げなかったと思っているようでしたから」
王子が関わっていた事は初耳で、それは極秘事項だと思うのだが、タウロは聞き流す事にした。
「そうだったんですか……。それでも、かなり助かりました。おかげでヴァンダイン侯爵の一人娘であるエアリスが大いに助けられました。お礼と言っては何ですが、これをお受け取り下さい」
タウロはそう言うと、マジック収納からジーロ・シュガー作のリバーシ専用の特別盤を出してシャーガの前に置いた。
「こ、これは……!宰相閣下が自慢なされていたあの、ジーロ・シュガーの作品ですか!?」
シャーガは、目を輝かすと、繊細な彫り細工がされた芸術品をいろんな角度から見て感動してくれた。
「一応、僕はジーロ・シュガーの弟子でもあるので、作品を渡されていたのでお譲りします」
「本当にいいんですか!?この特別盤を欲しがる金持ちは幾らでもいますよ!?私は予算で買おうとして助手のジョシュナさんに止められましたから、オークションに出た物は入手できなかったんですよ!」
悔しそうにいうと、改めて全てが一点物の貴重な作品である目の前の特別盤を眺めるのだった。
え?予算で買おうとしたの!?
内心呆れるタウロであったが、大事な事を言うのを忘れなかった。
「それと、1つお願いがあるのですがいいですか?」
「なんでしょう?私に出来る事なら何でも聞きますよ!」
シャーガはもう、ノリノリであった。
目の前の特別盤が貰えた事で何でも言う事を聞いてくれそうだ。
「実は、僕とエアリスでダンジョンに入りたいんです。目的はエアリスの父、ヴァンダイン侯爵が失踪した場所で献花する事です。無理を承知でお願いします」
タウロは、頭を深々と下げるとお願いした。
「タウロ殿、頭を上げて下さい!もちろん、以前約束した様に、その約束は果たします。ただ、現在、すでに潜ってるチームが複数あるので、同行する騎士が足りません。なので最低でも一週間後になりますがいいですか?」
「もちろんです!ありがとうございます!」
「こちらも、約束が果たせて良かったです。あと、この特別盤を頂いたからには、護衛の騎士も優秀な者を付けさせて貰います!この特別盤は、家宝として大切にさせて貰いますよ!」
シャーガは特別盤に向かって拝む素振りを見せた。
よほど、気に入ったらしい。
作った当人としても喜んで貰えてうれしい限りだが、使って貰ってこその特別盤なので使用して欲しい、だが、それは当人次第だろう。
タウロは、シャーガにお礼を言うと研究所を後にするのであった。
宿屋に戻ると、一台の馬車が止まっており、エアリスがやって来ていた。
今やヴァンダイン侯爵家を取り戻したエアリスだ、すでにヴァンダイン家の屋敷に移っているのだが、タウロも一緒に来てくれなかった事に不満顔だった。
「今日はどこに行ってたのよ?」
王家との面会には参加できないから別行動にしたのだが、エアリスはそれも不満だったようだ。
「シャーガさんのところだよ。エアリスに聞いておきたいけど、君のお父さんの亡くなった場所に献花しに行けるよう約束を取り付けて来たけど行けるかい?」
「……行く」
エアリスは短く一言答えた。
「うん、じゃあ、その日が決まったら連絡するよ」
「……もう!宿屋からうちに移動しなさいよ!うちの方はタダなんだからいいでしょ!」
エアリスは怒ると頬を膨らませた。
「でも、あの執事は嫌いだからなぁ」
「あいつはあの人の共犯で連れてかれたわよ!今、前の執事だったシープスを呼び戻しているところよ」
「それは良かったよ」
「だ・か・ら!家にきなさいよ!何度も言わせないでよ!」
エアリスが人目を憚らず大声で言う。
「……わかったから!じゃあ、荷物まとめてくるから待ってて」
豪華な屋敷は苦手なので嫌だったのだが、タウロは断り続ける事を断念したのだった。
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