第167話 騒動後の忙しさ
ヴァンダイン侯爵家のお家騒動に、ついに終止符が打たれた。
この事は、この日の内にどこからともなく噂が広がり、一連の事件に邪推する者もいたが、その直後に渦中のエアリスの後見人に王家がなった事が発表されると、それも表面上はピタッと止まった。
後見人の側妃は今、国王から一番の寵愛を受けていて絶頂期だ。
表立って敵には回したくない。
そして、侯爵夫人の処分だが、塔に幽閉されこれまでの悪事について証言していたが、ある日の朝、冷たい亡骸になって発見された。
毒殺だった。
どうやら、暗殺ギルドの事をこれ以上証言されたくない者の犯行と思われた。
余談ではあるが侯爵夫人の赤子は夫人の実家の伯爵家に引き取られる事になった。
エアリスはおかげで、もう身の危険を感じることなくヴァンダイン家に戻れる事になった。
表立って露骨に婚約を持ち出す貴族もいなくなった。
後見人を通さない事には話が進まないからだ。
面会で協力する条件に結婚をチラつかせていた貴族達は、そんな事は無かった様に振る舞っていた。
さすがに後見人の王家相手にヴァンダイン侯爵家をうちの息子に継がせたいとは表立っては言えないだろう。
まあ、王家がセッティングしたお見合い話は出てくるだろうが、王家としてはこの中立派の重鎮でもあるヴァンダイン家には国の派閥同士のバランスを取って貰う為、変な相手をお見合いさせる事はないだろう。
タウロはエアリスの戻るべき場所が取り戻せて心から安堵した。
短い期間だったが、共に過ごした大事な仲間だ。
今思うと、エアリスが当初、最年少にこだわっていたのも、自分の居場所を、存在価値を、見出そうと必死だったのかもしれない。
そして、少しの間だが、『黒金の翼』がその場所になった、いや、なっていたと思いたい。
タウロにはこのお家騒動が解決の他に、もうひとつ、エアリスの為にやっておきたい事があった。
それは、エアリスの父親が亡くなったと思われるダンジョンに一緒に行って献花する事だ。
気休めではあるが、それでエアリスの気持ちにも一区切りできるのではないだろうか?
ダンジョンは厳重な管理の元、入るどころか近づく事もままならい場所だが、幸いダンジョンの出入りは以前出会ったダンジョン調査の責任者であるシャーガにお願いすれば何とかなりそうだった。
それと、コノーエン伯爵を紹介して貰ったお礼も言わないといけない。
そうだ!お土産に前回渡せなかったリバーシの特別盤をひとつ上げようか?
自分で言うのも何だが、今やタウロが作る特別盤はオークションなどで高値で取引される幻のジーロ・シュガー作品と言われていて、入手が困難だそうだから喜んでくれると思う、一応自分はジーロ・シュガーの弟子という名目だから、言い訳はできるだろう。
早速、タウロはガーフィッシュ商会に連絡してシャーガに会う予約を取って貰った。
エアリスは数日の間は王家と会ったりして忙しいので別行動になっている。
流石に農家出身で平民のタウロもフルーエ王子と会えるのは非公式的で特別な事だったので、公式の場で他の王家の人間に会う事はできない。
なのでエアリスは渋ったが同行しなかった。
だからその間に、ダンジョンに行く許可を取る事にしよう。
他にもガーフィッシュ商会と商談もある。
タウロはタウロでやる事は多かった。
「──わかりました。シャーガ殿にはすぐ連絡して、時間を作って貰いましょう。で商談に移りたいと思うのですが…、『濡れない布』でのタウロ殿の考えたテント、雨具、馬車の幌、など試作品を作って展示会をして関係者に評判を聞いたのですが、大量注文があったんです。なのでタウロ殿に話を通しておこうかと」
ガーフィッシュ商会代表マーダイがタウロに説明と報告をした。
「大量注文?どのくらいの規模ですか?まさか百とか二百とか?」
「まずは雨具を千。これは近衛騎士団から。王国騎士団からもテントと雨具の注文がまとめて来そうです。」
「千!?それも騎士団から!?」
「魔物の革を使った物に比べて軽い上に価格も割安、水を弾くのですぐ乾く。タウロ殿の指導で裁縫の仕方にも工夫をしてるので丈夫に出来てますから軍には魅力的です。お金も国から出るので金払いも良い。最高の顧客ですよ!」
「ですがそれだと、生産が追いつきませんよね……」
「それなら、もうすでに、追加の工場の建設と職人を集めています。来週には大量生産に着手できると思います」
ガーフィッシュ商会代表マーダイの手際の良さは相変わらずだ。
好感触を得た段階で準備をしていたのだろう、行動が早い。
「それと、魔道具『ランタン』ですが、再来週には販売を始めます。こちらはタウロ殿の提案通り、店頭で展示して通行人の気を惹く作戦です。これに使用するクズ魔石も冒険者ギルドからかなりの量、仕入れて置きましたよ」
店頭だと盗まれる可能性があるが、店先に口の達者な店員を一人立たせて、この『ランタン』の凄さを通行人に説明して貰う。
そう、前世でやっていたTVショッピングなどの実演販売だ。
こちらでは行商人が路上でやる手法だが自分のお店の店頭でやる人はいない。
うまくいけば、話題になる、タウロはそれが狙いだった。
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