第165話 金庫を開ける
タウロとしては執務室からメイド長には立ち去って貰いたいが、目的の物をみつけるまでは、もとい、目的を達成するまでは出ていく気配が無いのでこの、わけありっぽいメイド長に声をかける事にした。
「何をしているんですか?」
メイド長は注意を散漫にしていた事を後悔し、声をかけられた方をゆっくり見た。
そこには、エアリスが連れていた少年がいた。
メイド長はそれを確認すると内心安堵し、
「お客様、迷われましたか?ですがこの様なところに出入りされては困ります。夫人には内緒にしますので退室して下さい」
と、声をかけた。
「この状況で困るのはあなただと思いますけど」
「……何をおっしゃられますか。私は夫人の探し物を代わりに探していただけですよ。人聞きの悪い事をおっしゃられると困ります」
「今から、ヴァンダイン侯爵夫人に確認する事も可能ですよ?と、言ってもいいところですが、それだとあなたは困りますし、僕もエアリスも困ります。時間がありませんのでそこをどいて貰っていいですか」
タウロはメイド長に近づくとその魅力的な体を押しのけると金庫の前にたった。
「……何を!?」
メイド長は、少年が何をするのか理解できず問いただした。
「何をって、今からこの金庫を開けます」
「それが出来ないから私は鍵を探して……あ」
メイド長は、自分が口を滑らせた事に気づいて言い淀んだ。
「あなたと僕の目的は同じみたいです。それはこの金庫を開ける事。こちらはエアリスの為に開けたいし、あなたは……?」
「私もエアリスお嬢様の為です!」
メイド長は、自分の正当性を主張した。
「じゃあ、一緒です」
タウロはニッコリ笑うと頷いた。
「でも、あと一つの鍵が無いのです……」
メイド長はいくら探しても見つからない事に悔しそうに言った。
「鍵は多分、侯爵夫人の元にありますから探してもみつからないです。なので、鍵は自力で開けます」
タウロは侯爵夫人を『真眼』で視た時に金庫の鍵を持っている事を確認していたのだ。
「最後の鍵の形状は確認してるので……、『マジック収納』から鉄を出してっと。『創造魔法』で、作成」
タウロは鉄の塊を両手で覆うと『創造魔法』で金庫の鍵を作って見せた。
「え?」
メイド長は、少年の手の平から鍵が出てきた事に何が起きたのかわからず、驚いた。
「……やっぱり、『創造魔法』は魔力を持ってくなぁ…。あ、本当は鍵無しの場合は、針金で開けるつもりでしたが、あなたが鍵をひとつ入手してくれてて良かったです」
そう言うと、その鍵を金庫の鍵穴に指すとひねった。
ガチャ
金庫が開く音がした。
「え!まだ、魔法の錠を開けていないのに!?」
「それは、貴賓室からエアリスが開けてくれました」
そういうと大きな金庫の重い扉をタウロは開けた。
『神箭手』で力の補正がされていてもその重さに手応えを感じた。
その重い扉の向こうの中には、貴金属類から、お金、美術品の類から重要書類に至るまで広いスペースにびっしりと入っている。
メイド長は、その量に愕然とした。
「……この中から探すのは時間がかかりそう」
「それも大丈夫です」
タウロはそういうと金庫の中身を全て『マジック収納』に一旦入れた。
「金庫の中身が一瞬で!?」
唖然とするメイド長。
「そして、目的の物を出します」
タウロがそういうと、『マジック収納』からヴァンダイン侯爵夫人がタウロ暗殺とエアリス誘拐、暗殺の契約を結んだ証拠となる書類が手元に現れた。
「金庫の中身はちゃんと戻しますからね?」
そういって金庫に手をかざすと、他の物は全て元通りに戻された。
いや、最初より整理整頓されて戻っていたので金庫内部をいじった事はバレバレだがそんな事はどうでもいい。
書類さえ手に入れば、問題ない。
「その書類があれば、エアリスお嬢様は大丈夫なんですね?」
メイド長がこの頼もしい目の前の不思議な少年に確認した。
「はい、あとは外の衛兵を呼んで夫人を逮捕するだけです」
そう言うと、タウロは念の為、『マジック収納』に、証拠書類を仕舞った。
「メイド長さんは外の近衛兵さん達を呼んで来て下さい。僕はエアリスの元に戻ります」
タウロは、メイド長に会釈すると、執務室を出ようとした。
「ちょっと待って!君の名前は?」
「タウロ、エアリスの友人のタウロです」
「私はメイド長のメイと申します。エアリスお嬢様をよろしくお願いします」
メイド長はこの不思議な少年に、メイド見習い当時から面倒を見ていた大切なエアリスを託す様に深々と頭を下げるのだった。
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