第157話 予定外の面会

 タウロとエアリスは慌ただしく着替えて準備すると、使者に急かされながら馬車に乗り込んで貴族が多く集まる貴族の住居区域まで案内された。


 二人は貴族との面会でもう、来なれた区域だ。

 それだけにタウロはふと違和感を覚えた。


 アヤンシー伯爵はハラグーラ侯爵派閥でも力を持つ貴族だ。

 この区域は比較的中級・下級貴族が多いところで上級貴族はまた別の区域で、もの凄く広い敷地の屋敷に住んでいるのだ。

 もちろん、上級貴族でもここに住んでいる者はいるのだが、あの派閥のなかでアヤンシー伯爵は異色の存在なのだろうか?


 まあ、会ってみればわかるか。


 タウロはそう納得すると馬車に揺られるがままアヤンシー伯爵の屋敷まで行くのだった。



 到着した屋敷は、そこそこ大きいのだが、噂に聞く力を持ってる割に……、という雰囲気だった。


「それでは、どうぞ」


 使者が屋敷に案内する。

 タウロ達は中に通された。


 内部は質素だった。

 というより、質素過ぎる。

 タウロが『気配察知』で、屋敷内の人の流れを確認すると、阻害系スキルが使用されているのか確認できなかった。

 護衛の近衛兵も同じだった様で、タウロを見ると首を振った。

 貴族の中には探られるのを好まず、阻害系スキルを持つ者を側に置く者も少なくない。

 この辺りはさすが上級貴族といったところなのかもしれない。


「護衛の皆様はこちらの部屋でお待ち下さい」


 使者は近衛兵とタウロを別室に案内しようとした。


「あ、僕はエアリス嬢と同席しますので、アヤンシー伯爵にお伝え下さい」


 使者は、眉をひそめて考え込んだが、


「それでは確認してきますので少々お待ち下さい」


 と、言い残すと貴賓室に一人で入っていった。


 しばらくすると使者は戻って来た。


「お二人にお会いになるそうです、どうぞ」


 使者に案内されるままタウロとエアリスは貴賓室に入っていく。


 貴賓室の扉が閉まるタイミングだった。


 タウロの首筋にチクッと痛みが走った。


 あ、また、このパターンか。


 タウロは振り返ると扉の影に男が立っていて口には細い筒が握られている。

 エアリスは口を押えられて羽交い絞めに遭っていた。


 タウロの体が軽く痺れたが、すぐ正常に戻った。

 今度は毒ではなく、麻痺系だった様だ。

 効き目が弱いのはエアリスに使用するつもりだったのだろう。

 タウロの『状態異常耐性』と、それを強化する『闇の精霊の加護(弱)』で麻痺の効き目はかき消されたのだった。


 タウロが、すぐに小剣を抜いて向かってきたので、


「なぜ、倒れない!?」


 と、男達はこの少年に驚いた。


 まず、タウロはエアリスを羽交い絞めにしている男の腕を斬りつけると、エアリスを解放し、自分に麻痺の針を刺した男に斬りかかる。


 麻痺針の男はタウロに針を刺した事で油断していたのでタウロの動きに対応できず、あっさりと小剣で脇腹を刺されて叫び声を上げた。


 タウロはもう、麻痺針の男には目もくれず、最初に斬りつけた男に向かう。

 男は斬られた腕を抱えながら、奥の扉に走った。

 だが、タウロの俊敏さの方が突出していた。

 あっという間に、距離を詰めると、太ももに小剣を突き立てた。


「痛ぇ!」


 男は扉に手をかけながら倒れ込んでその場に崩れ落ちた。


 貴賓室の外では、使者の男が、扉の前で近衛兵と押し問答になっている声が聞こえてきた。


「エアリス、大丈夫?」


「うん。タウロこそ、首筋の針、何ともないの?」


 エアリスは心配してタウロの首筋を見た。


「僕は大丈夫だよ」


 答えるとその場で針を抜いてその場に捨てて見せた。


「どうやらこれも、ヴァンダイン侯爵夫人の差し金っぽいね……」


 怪我をして倒れた男達を眺めながらタウロは、これまでの違和感に合点がいって納得するのだった。


 使者の男は扉の前で、近衛兵と揉めていたが、扉が開き、タウロが出てくると、驚き、察したのか無抵抗になり近衛兵達に押さえ込まれた。


「これ、罠でした」


 タウロが近衛兵達に報告すると近衛兵達は室内に入り怪我した二人の男を捕らえ縛り上げた。

 怪我はすぐに、タウロのポーションと近衛兵の治癒魔法で治療した。


「僕の再暗殺と連動する予定だったんだろうねこれ」


 犯人三人を馬車に押し込んで一息つくとタウロがそうエアリスに言った。


「え?タウロまた狙われてたの?」


 まだ、報告していなかった事をタウロは思い出し、午前中の暗殺者との顛末を説明するとエアリスは怒っていいのか、安堵していいのかわからず、複雑な表情になるのだった。

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