第151話 薬草採取で人攫い
ある日の事。
タウロとエアリスは王都に近い森に来ていた。
側には近衛騎士団から非公式に派遣されている"非番"の近衛騎士が二人同行している。
何故森に来ているのかと言うと、薬草採取クエストをする為だ。
C級帯以下の冒険者はクエストをしないで二か月放置していると降格、五か月放置で資格のはく奪と重い処分がある。
今日はたまたま時間が空いたので、まだ余裕はあるが二人は簡単なクエストを消化して放置状態にならない様にとやって来ていた。
「……このくらいでいいかな。この辺りの森は薬草少ないから普段より時間かかったね」
タウロがエアリスに感想を漏らした。
「本当ね。タウロの『真眼』がなかったら大変だったわね」
エアリスが笑って背伸びした。
ここのところずっと王都内で貴族との面会ばかりだったので、息が詰まる思いだった二人には気晴らしにもなって良かった様だ。
タウロもつられて笑ったが、すぐにそれは収まった。
『気配察知』に、自分達を遠巻きに囲み始めた一団が引っ掛かったからだ。
近衛騎士も感知系スキルをもっているのか、すぐに気づいてエアリスの側に寄る。
『真眼』で確認すると茂みの向こうで指示を出している者のシルエットが映り込む。
タウロは弓を構え振り絞ると、そのシルエットの側の木に警告を兼ねて矢を放った。
矢は、茂みを突き抜け、木々の合間を掠めて飛び、大気を切り裂き、唸りを上げるとリーダーらしき人物の側の木に深々と突き刺さった。
リーダーらしき男はこちらから距離がまだあると油断していたのか腰を抜かした様でその場に座り込むのがシルエットで確認できた。
だが一団はそのリーダーの醜態をわき目にタウロ達への包囲網を狭め始めた。
相手は十五人。
警告をしてもこちらに来るのだから、狙いはエアリスだろう。
「数は十五人。警告を無視して、半円の陣形で迫ってます」
タウロは近衛騎士に一応、知らせた。
近衛騎士二人は頷くと剣を抜く。
一応非番なので普段の豪奢な板金鎧ではなく平服だが、タウロから見てもこの二人がただ者ではないのが雰囲気だけでわかる。
それにつられる様にエアリスも杖を構えた。
早速、防御魔法を唱えて、味方にかける。
続けて、俊敏上昇魔法、攻撃上昇魔法、耐久上昇魔法と唱える。
タウロはその間に迫る敵の数を減らす事にした。
半円の左側から右側に等間隔に茂みに向けて立て続けに矢を放っていく。
すると茂みの向こうからギャッと立て続けに悲鳴が起こった。
『真眼』でシルエットを確認すると合計5人の右肩に矢が刺さりうずくまるのを確認した。
相手は明らかに動揺していたが、
「今更引けるか!」
という声と共に、茂みを抜け、こちら側に男達が現れた。
「とにかく娘を攫えば終わりだ。護衛とガキは殺してい……」
という指示を出した男は言い切る前に次の瞬間、タウロの矢に額を射抜かれて絶命した。
「黙って殺される程お人好しでもないよ」
タウロは他の男達に聞こえる様に言うと、再度弓を構えた。
これには男達もたじろいだ。
「話じゃ護衛二人を相手にすればいい楽な仕事じゃなかったのかよ!」
誰かがそう口にすると他の男達にも動揺が広がった。
タウロはそこに追い討ちをかける様にタウロの能力の一つ『威光』で男達を威圧する。
近衛騎士二人は、タウロの意図を読むと、一人はエアリスの側に、一人は近くの男に一瞬で踏み込んで近づくと相手が握っている剣を跳ね飛ばした。
一瞬の出来事に、剣を飛ばされた男とその周囲の男達も呆然としたが、
「やべぇー!レベルが違うじゃねぇか!」
と、誰かが叫ぶとみな逃げだすのだった。
近衛騎士二人は、エアリスの護衛が目的だったので後を追わず、タウロもまた逃げる連中の背中に矢を放つ事はしなかった。
「君は凄いな。弓の技術もだが、その歳でどれだけ場数を踏んできたんだ?」
近衛騎士二人はタウロの無駄の無い立ち回りに感心するのであった。
男達を当初指示していたリーダーらしき腰を抜かした者は、男達が逃げて引き返してきたので一緒になって逃亡した様だった。
シルエットからするとヴァンダイン侯爵夫人の不倫相手であるウワーキンだった気もしたが確認はできなかった。
「薬草採取クエストが、とんだ大騒ぎになったわね」
エアリスが、安堵しながら、ため息をついた。
「思ってたより実力的には大したことが無い連中だったね…。まあ、それに越した事はないのだけど……」
冒険者の報告にあった、腕利きと思われる人物が混ざっていなかった事にタウロは一抹の不安を覚えるのだった。
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