第150話 奇跡の小剣

 王宮の第五王子が住まう区画の一室。


 そこで前回会った時と違うフルーエ王子の成長ぶりに、タウロは素直に驚いていた。


 ぽっちゃりとした我が儘な雰囲気を持った姿はそこには無く、背が伸びてその成長にぽっちゃり部分は栄養として持っていかれた様で、スレンダーな体型になっていたのだから驚くのも仕方が無い。


「久しぶり、僕の友人。そしてお連れのお嬢さん。席に着いてくれ」


 フルーエ王子は落ち着き払って二人に席を勧めた。


「……で今日呼んだ理由はわかるかな?」


 フルーエ王子は勿体ぶってタウロに聞いた。


 タウロはフルーエ王子のただならぬ雰囲気を感じたが身に覚えがない。

 エアリスの事だろうか?


「……わかりません、殿下」


「わからないか……、なら僕から言おう。……何で王都に来ておいて、最初に面会したのが僕じゃないんだよタウロ!」


 その言い方に、以前のフルーエ王子の面影がはっきり見えた。

 以前から知っている王子のままだ。

 いや、王子として成長してるのは見て取れる。

 だが、その思いやひた向きな性格は変わってない印象を受けた。


「フルーエ殿下にご迷惑をおかけするわけにもいかなかったので……」


 タウロがそう言うと、間髪を入れずにフルーエ王子は言った。


「友が困っているのに助けないわけがないだろう。迷惑と思うわけがないじゃないか」


 王子は大袈裟にため息をつくとタウロをチラッと見る。


「……一番に友人に知らせるべきでしたね、ご心配をお掛けしました。ありがとうございます」


 タウロは頭を下げるとフルーエ王子に謝意を示した。


「よし、それじゃあ、詳しい話を聞くよ、タウロ。お連れのヴァンダイン侯爵家の令嬢もそうしたいだろう」


 フルーエ王子はそう言うと、二人の話に耳を傾けるのだった。



「……なるほど。ヴァンダイン侯爵家は王家にとっても大切な臣下だ。兄上達も同意見だろう。その侯爵家の血筋がそんな形で断たれる事は望まない。それに、ダンジョン探索においても侯爵は国に貢献してくれていた事は僕でも知っているから、陛下や母上の耳にも入れておこう」


「ありがとうございます、殿下」


 エアリスがお礼を言う。


「いや、いいのだ。僕に出来る事は微々たるものだが、友の仲間は僕にとっても大事な仲間だ、頼ってくれ。よし、僕もエアリスと呼ばせて貰うぞ。僕の事も気軽にフルーエと呼んでいいぞ」


 フルーエ王子はそう答えると、エアリスは頷き、


「はい。それではここではフルーエ様と呼ばせて貰います」


 と、答えるのだった。


「エアリスは話が分かるな。タウロは僕の事を『フルーエ王子殿下』と他人行儀な呼び方しかしないのだ」


「殿下、僕は庶民なのでエアリスの様にはいきませんよ。もし、他の人にそれを聞かれ様ものなら手討ちにあっても文句は言えません」


 タウロはフルーエ王子の不満に苦笑いするのだった。


「……うん。わかった。タウロに関しては仕方が無いな。だが友は友だ。困ったらちゃんと僕に頼れよ」


 フルーエ王子はそう言うと席を立ち、奥の部屋に何かを取りに行ってすぐに戻ってきた。


「以前はお金と言う形でしかお礼が出来なかったからな。僕なりに考えてこれを最近評判のいい職人に作らせておいた」


 そう言うとフルーエ王子はタウロに一振りの剣を差し出した。


「これの柄には王家の紋章が入っている。父上にもこの事は許可を貰っているのでタウロに下賜する事はご存知だ。困った時はこの剣を見せればここへの出入りも出来るし、国内なら色々と融通が利くはずだ」


 柄にカバーが付いていて、それを外すと王家の紋章が入っていた。


 その贈り物に驚いたタウロは『真眼』で鑑定して改めてまた驚いた。


 名匠アンガス作小剣『タウロ』敏捷+6付与、剣技+4付与、光属性付与。


「これって……。作った人はサイーシの街の鍛冶師をしている人ですか?」


「そう言えば、セバスからタウロと同じサイーシの街の鍛冶師だと報告があったな。うん?タウロは『鑑定』スキルを持っているのか?」


「いえ、『鑑定』スキルは持っていませんが、それに類似する能力は持っていますので」


「そうだったのか。この小剣は数本の候補の中で、偶然かこの小剣に鍛冶師が『タウロ』と名付けていたので、これが気に入ったのだ。受け取ってくれ」


 改めてフルーエ王子は小剣をタウロに差し出した。


 王家の紋章は荷が重いが、ここでまさかアンガスの作った剣に出会えるとは思っていなかった。

 ましてや、王家からの注文された小剣にタウロの名を名付けてくれるとは……。

 アンガス本人もまさかそれが一時は師匠と呼んでいたタウロに贈られる為に注文されたものだとは思っていないだろう、偶然が偶然を呼んで、最早奇跡レベルの巡り合わせだった。


 これを断れるわけがない。


「……ありがたく頂戴します」


 タウロは膝をつくとフルーエ王子の手から恭しく小剣『タウロ』を受け取った。


 すると、タウロの脳内に『世界の声』がした。


「特殊スキル【&%$#】の発動条件の1つ<奇跡を招く者>を確認。[幸運]を取得しました。」


 またも意外なタイミングで能力を得るタウロであった。

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