第145話 宿屋にて
タウロとエアリスはガーフィッシュ商会の紹介の宿屋『バッカス亭』に泊まる事になった。
夜、タウロの部屋にエアリスがやってきた。
何か話したそうなので部屋に通した。
備え付けの椅子にエアリスを座らせると水を出してタウロもテーブルを挟んで向かいに座る。
「……タウロありがとうね」
「お礼はまだ早いよ。全てはこれからだから」
「そうなんだけどね……、先が見えなくて不安だった。いえ、そうじゃないわね。私、自分がいない間に
そう言うとエアリスはため息をついた。
「エアリスのお母さんは再婚して侯爵家を乗っ取るとかしないの?」
タウロは一つの疑問があった。
ウワーキンと再婚して、エアリスを亡き者にしてしまえば、侯爵家はエアリスの母親のものになるはずだと思ったのだ。
だが、そうせずにエアリスを連れ戻そうとしている。
「それは、簡単な事よ。父はダンジョンで失踪したからそこで亡くなったんだと思うけど、まだ、遺体が発見されてないの。だから、確認できない場合、五年の猶予ののち、初めて死亡届が受理されるから、あの人達はそんなに待つくらいなら爵位継承をして私に侯爵位を移してウワーキンと再婚させた方が手続き的にも簡単だと思ったのよ」
「……そして、エアリスは傀儡にして自分達が好きに権力を振るうって事か」
「あの人はあくまで侯爵夫人で、今でも侯爵としての権限は、”行方不明”の父に残ったままだから、その方が二人で好きに出来るもの。もしかしたら、間に子でも生まれたら邪魔な私はあっさり消されるかもね。」
自嘲気味に不吉な事をエアリスは口にした。
「駄目だよ、フラグみたいな事口にしちゃ」
「フラグ?」
「ああ、不吉な事だね。言った事が本当になる事ってあるでしょ、だから不吉な事は口にしない方がいいかなって」
「そうね。気を付ける」
タウロはエアリスの想像が事実にならない様に未然に防がなくてはならない。
だが、ふと思った。
エアリスの言う通り、その母親とウワーキンの間に子が生まれたら?と。
失踪していたエアリスの子だと偽って、口封じにエアリスを消す可能性もあるのではないか?
エアリスはまだ成人を迎えてないが、この世界では未成年で子を宿す事はままあることらしいので、世間には適当な理由として使える口実だ。
そうならない様に、早めに手を打たないといけないと思うタウロだった。
翌日の朝。
ガーフィッシュ商会から、使者が訪れた。
近衛騎士団団長のコノーエン伯爵との面会が昼に決まったと、伝えに来たのだ。
「わかりました。場所は近衛騎士団本部ですね。ありがとうございます」
タウロは使者にお礼をすると、エアリスにもその事を伝えた。
「じゃあ、朝食を済ませたら、冒険者ギルドに寄っていいかな?」
「うん?いいけど、ギルドには何しに行くの?」
「ちょっとヴァンダイン家の調査依頼を出したいなと思って」
「調査?」
「そう、最近の情報はエアリスでもわからないでしょ?だから現状のヴァンダイン家を調べておこうかと思ったけど駄目かな?」
「ううん。私が家を出てから1年以上経ってるから、調べた方がいいと思う。じゃあ、朝食を食べ終わったらギルドに行きましょう」
そう言うと、二人は、一階の食堂に食事をする為に降りて行くのだった。
二人はギルドで依頼と内容について事細かに相談すると手続きをする頃には、お昼近くになっていた。
「このまま近衛騎士団本部に向かった方が良さそうだね」
「そうね、このまま向かいましょう」
二人はギルドを出ると、その目の前にある王都内の交通網のひとつの、短距離乗り合い馬車に目的地を聞いて確認し乗り込んだ。
前世で言うところのバスの様なものだ。
青色の幌が特徴で、王都の目立つ建造物の前には必ずと言っていい程、停留所があった。
他にも乗っている人がいたので詰めて座る。
早さは歩くよりはマシという程度だが、この広い王都では非常に便利な乗り物であるのは確かだった。
「緊張してきたわ、大丈夫かな……」
馬車に揺られながらエアリスが、珍しく弱音を口にした。
「会って話をするだけだから、大丈夫だよ」
タウロはエアリスを和ませる様に励ますのだった。
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