第146話 本部前でひと騒動
タウロとエアリスは近衛騎士団本部前に到着した。
城門かと思われる程の壁に覆われ内部を見る事はできないが、多くの兵士が訓練している様で声だけが壁を越えて聞こえてきた。
入り口で衛兵に近衛騎士団団長との面会予定がある事を伝えた。
「何?貴様らが?子供に時間を割く程、団長は暇ではない。それに本当に面会予定がある方にはこちらから迎えを寄越している。どこで今日、面会予定があるのを聞きつけたのか知らんが、短距離乗り合い馬車で現れた者を信じてここを通すわけがないだろう。帰れ帰れ!」
それが本当なら、宿屋に迎えの馬車が来ていたのかもしれない。
「それでは、行き違いがあったみたいです。こちらの方は今日面会予定のエアリス様で、僕はそのお付きの者です。近衛騎士団長コノーエン伯爵に来訪をお伝えして貰わないとこちらも困りますし、そちらも知らせなかったとあっては叱責を受けると思うのですが」
タウロが一歩前に出ると衛兵に丁寧に伝えた。
「我々は業務を忠実に行っている。昼の面会者は馬車で訪問されると連絡を受けている以上、怪しいと思った者の相手をする程、こちらも暇じゃない!」
衛兵は考え方が固い様だ。これでは話にならない。
こうなれば中にいる誰かに直接ここに来て貰うほかないだろう……。
タウロは『気配察知』で壁の向こう側で兵士が大勢いるのを感じ、『真眼』で規則正しく並び剣を振っているシルエットを捉えていた。
そのシルエットから少し離れた所で兵士を見ているシルエットがある。
多分そのシルエットは兵士達の上官だろう。
タウロはそれを確認すると力技に出る事にした。
「距離はあるけど、今なら大丈夫かな」
タウロはそうつぶやいてアルテミスの弓を引き絞ると、目の前で弓矢を上空に構えた。
衛兵はその姿を咎めた。
「何をする気だ、小僧!近衛騎士団本部前でその様な暴挙は許さんぞ!」
衛兵は慌ててタウロに止めようと近づいてくるが、それを無視して矢を放つ。
立て続けにさらに二本の矢を上空に放つ。
計三本の矢はそれぞれ違う高さに飛んでいくが落下する時点で上空で揃うと本部の敷地に落下して消えていった。
「………あ!馬鹿者!本部敷地内にそんな事をしてタダで済むと思うな!」
衛兵は矢の行方を視線で追って一瞬呆然としていたが、タウロの眼前に槍を向けた。
タウロは、素直に手を上げると、他の衛兵も出てきて子供相手に大捕り物騒ぎになった。
タウロは、衛兵達に力ずくで地面に押さえつけられる。
エアリスも、衛兵に槍を向けられ、動きを抑えられた。
そこへ、衛兵とは違う豪奢な板金鎧の兵士が走ってきた。
「こちらに矢を放った者達は誰だ!?」
「近衛騎士殿!この小僧がやったので、取り押さえました!」
「…子供一人がやったのか?」
「はい!目の前でやるのを自分が確認してるので現行犯です。子供とはいえ厳罰は免れませんな」
衛兵が、手柄をアピールした。
「団長が、連れて来る様にとおっしゃっているから放してやれ」
「え?放す?」
衛兵は聞き間違えたと思ったのか聞き返した。
「そうだ、そちらのお嬢さんはその子供の連れか?一緒に連れて行く」
近衛兵は地面に抑え付けられているタウロを解放する様に衛兵に命令すると、タウロを立たせて、埃を払ってやった。
エアリスにも、手を差し伸べてタウロと一緒に来る様に誘導する紳士ぶりを見せるのだった。
タウロとエアリスは敷地内に通された。
多くの近衛兵が並ぶ前に連れていかれる。
そこには、三本の矢が地面の一か所に突き刺さっていた。
「これをやったのは君か?」
刺さった矢の傍に一目で偉いとわかる人物が立っていた。
その男性は、三十代で茶色の長髪に顎髭を生やした大柄な体躯の渋い雰囲気の獣人族だった。
「はい」
「……ふむ、その歳で、見事な腕前だな。……うん?そちらのお嬢さんは……」
「今日、面会の予定を入れさせて貰ったエアリスです、コノーエン伯爵」
「おお!道理で目元がヴァンダイン侯爵殿にそっくりだ……。あ、これは失礼した。自分は近衛騎士団団長を拝命しているコノーエンと言う。お父上のヴァンダイン侯爵殿には若かりし頃には世話になったものだ」
エアリスはその言葉に驚く。
「誰か!この二人を俺の執務室に案内してくれ。自分は汗を流したら後から行くので少々お待ち頂きたい」
コノーエン伯爵はエアリスにお辞儀をするとその場から離れた。
そんな中、近衛兵の1人がタウロとエアリスを本部の建物内に案内してくれるのだった。
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