第139話 一行の帰郷

 タウロ一行は昼頃、約三週間ぶりにダンサスの村に帰ってきた。


 マーチェス商会前に到着すると、リーダがオサーカスの街で仕入れた品々を預かっていたタウロが、マジック収納から出して商会内に積み上げた。


 リーダがマーチェスに山村との独占契約、タウロの野営用品の事、キシワンダ商会との無事取引が出来た事など諸々の報告をすると、待っていたタウロに早速、お礼と共に、タウロの考えた品の契約を持ち掛けてきた。


「あ、ギルドに報告後、商業ギルドに手続きに行くので、契約などの話はその後でお願いします……!」


 マーチェスの圧から逃れる様に答えると、タウロはエアリス達と共にギルドに向かうのだった。



「ダンサスのギルド、懐かしいな」


「そうだな、変わらねぇなここも」


 シンとルメヤがまるで数年ぶりに訪れる思い出の地という雰囲気を醸しながら、ギルド内に入っていく。


 その後にエアリスとタウロが付いて入っていく。


「三週間で変わるわけないでしょ」


 エアリスが、当然のツッコミを入れた。


「お?黒金じゃねぇか。最近見かけないと思ったが生きてたか」


「本当だ。長期クエストにでも行ってたのか?」


「他所に移ったのかと思ったぞ」


 四人がギルドに入ってくると、他の冒険者達が声をかけてきた。


「長期クエストに行ってました」


 タウロは、その声に応えると受付にそのまま向かう。


「お帰りなさい、チーム『黒金の翼』さん。完了の報告ですね」


 受付嬢のカンヌが、タウロ達を迎えると手続きを始めた。


 ロビーの声が聞こえたのか支部長室からクロエが出てきた。


「タウロ君達、無事に戻ってきたのね。予定より遅れてるから何かあったのかと思ったわ」


 四人の無事な顔を見てクロエは安心した。

 この四人はダンサス支部の将来を担う地元結成の冒険者だ。

 依頼主もこの村に貢献してる商会、何かあったらギルドの損失は大きいので本当に心配していたのだった。


「ご心配おかけしました。途中想定外な事がいくつかあったので、予定を越えてしまいましたが依頼主の許可は貰ったので問題はありません」


 タウロがクロエに直接報告をすると、受付嬢のカンヌが、


「報告書が長くなりそうですね♪代表者の方、お手伝いお願いできますか?」


 と、くすくすと笑うと報告書の用紙を数枚用意した。


「あ……、エアリス。僕、商業ギルドにも行きたいから報告書お願いできる?」


 タウロは、商業ギルドでも書類を提出しないといけないので、エアリスにお願いした。


 通常、報告書は冒険者の付けているタグに自動で記録されたものの確認と、口頭での説明を聞いて、受付嬢が簡単にクエスト完了項目をチェックするだけなのだが、想定外の事が起きた場合は、一から聞いて受付嬢が記入しなくてはならない。

 文字をかける者が手伝ってくれると捗るというものだ。


 だが、シンとルメヤは読み書きがあまりできない。


 これは今後の事を考えると、二人にも読み書きを教えた方がいいかもしれないとタウロは思うのだった。


「……わかったわ。タウロも今回はそっちの手続き多そうだものね。こっちはやっておくわ」


 エアリスは頷くと、引き受けてくれるのだった。


 シンとルメヤは神妙な面持ちで、


「「では、エアリス。後は任せた!」」


 と、言うと向かいの『憩い亭』に食事をしに行こうとして、エアリスから不興を買うのであった。



 商業ギルドに向かったタウロは、手続きが大変だった。

 魔道具のランタンに、濡れない布、それを利用したテントに雨具、マヨネーズにマスタード、フライドポテト、ポップコーンと登録するものが多かった。

 ギルド側は嬉しい悲鳴で、小さい支部なので支部長以下、事務員も総動員して登録手続きをする事になった。


「食品の方は専門外なのでわかりませんが、このランタンに水を弾く布の発想は天才的としか言いようがありません!」


 支部長がこの登録者名になっているジーロ・シュガーを称賛しながら、手を動かす。


 このランタンと濡れない布の二つには自信を持っていたのでタウロは内心、褒められてかなり嬉しかった。


 だがやはり、庶民から貴族までヒットすると想像してるのはマヨネーズだった。

 これは、マスタードと合わせて、人気になるはずだ。

 この村は特に『小人の宿屋』の揚げ物が有名になってきてるので、冷蔵庫でキンキンに冷えたお酒と、揚げ物にマヨネーズ、マスタードを付けて食べる。

 これは揚げ物好きには悪魔的な美味しさではないだろうか。


 タウロは、未成年なのでお酒は飲めないが、山村で大量生産される様になる未来が楽しみだった。

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