第117話 旅程

 マーチェス商会の代理の女性リーダと馬車の御者の男性、その護衛であるチーム『黒金の翼』六名は、馬車に揺られながら道を進んでいた。


「オサーカスの街までは一週間かかるんだよな?」


 ルメヤが今回の雇い主の代理人リーダに聞いた。


「は、はい!今回は峠越えの最短ルートなので、一週間ほどで到着予定です」


 リーダが簡単な地図を広げて全員に見せた。


 タウロは今回の詳しい旅程を聞いて少し呆れていた。

 主要な街も村もほとんど通過せず、ほぼ一直線でオサーカスの街までのルートだが、ちょっと弾丸行程が過ぎる。

 初日こそ、途中の村で一泊出来るがそのあとは、オサーカスの街の手前まで民家にありつけなければ野宿になりそうなのだ。

 これは行商人歴が長かったマーチェスが立てた行程計画なので、多少の無茶も苦ではない事を計算しての事だろうが、代理で来る事になったリーダには体力がありそうに見えないので、少し過酷と思える内容だった。


 道に詳しそうにしてたエアリスもオサーカスの街までの行程を約1週間くらいと言ってたところをみると、マーチェスと同じ、多少の無茶を甘受するタイプのようだ。

 今度から、エアリスの提案は余裕があるかの検討もした方が良さそうだ。


 まあ、事前に準備はしてきているので大丈夫だろう、と思うタウロだった。



 初日の夜は予定通り、行程の途中にある村に一泊する事にした。


「オサーカスの街までの旅ですか!という事は峠越えするおつもりで?」


 村の宿屋の主人がこの珍しい組み合わせの旅人達の話に驚いた。


「実は、ここ最近の話ですが、その峠越えの途中の道を外れたところに貧しい山村がありまして、そこの一部の若者が峠越えの旅人を時折襲っているらしいのです。なので、今は峠越えはお勧めできません」


「それは食うに困ってというやつか?」


 シンが宿屋の主人に聞いた。


「そうだと思います。なので引き返して迂回する事をお勧めします」


 宿屋の主人は答えると、安全策を提案した。


「……どうするリーダさん?」


 エアリスが今回の依頼人代理に判断を促した。


「……今、引き返して迂回すると、何日も遅れてしまいます。それは取引相手を待たせる事になります。商売は信用第一、ここはみなさんに負担をおかけしますが、峠越えでお願いできないでしょうか?」


「……依頼主が言うのなら、それに従うまでですが……、リーダさん、あなたの身も危険に晒されるという事は理解してますか?」


 商売を優先して自分の身の安全を疎かにしてないかとタウロは指摘した。


「……わかってます。でも、マーチェス代表もおっしゃってましたが、この取引は大きなチャンスなんです。私もそう思います。約束の期日がある以上、私の身に何かあった場合はタウロさんが取引先まで商品を届けて下さい」


「そこまで悲壮な覚悟をしなくて大丈夫ですよ。噂がここまで来てるという事は相手は旅人を殺さないただの物盗りだからでしょう。怪我人は出てるかもしれませんが、山村の者とまで特定されてるのなら、大した事をやる連中ではなく食うに困っての行動に、近くの村は大目に見て、見逃しているんだと思います」


 他のお客を相手にする為に背中を向けた宿屋の主人にタウロが視線を送りながら、あの人は教えてくれた善人です、と付け加えた。


 タウロやエアリスがまだ子供だから、宿屋の主人は忠告してくれたのだろう、主人には悪いがこのまま、予定通り峠を越えるルートを進む事にするのだった。



 翌日の朝、村を出発する時、宿屋の主人には再び止められたが、丁寧にお礼を言うと出発した。



 峠まではあと二日あるその前に寄り道すれば村はあるのだが、やはりまっすぐのルートでは民家も無く夕方を迎え、早速、野宿する事になった。


「じゃあ、野営の準備するね」


 タウロはそう言うとマジック収納から丸めた布の塊と木の棒、杭、トンカチを出した。


「?それ何に使うの?」


 エアリスがタウロがまた何か変な事をし出したと思い、興味を引かれた。


「これはテントだよ」


 そういうと布の端の紐を地面に打った杭に結んで布を広げ棒を立てて、立体的に組み立て始めた。

 あっという間に人が入れるスペースが出来た。


「この日の為に作っておいたんだ」


「へー。でも、布製だと雨が降ったら終わりじゃない?革製じゃないと」


 エアリスが覗き込みながら言う。


「ふふふ。それは大丈夫。布にはスライムの体液を染み込ませて、防水効果を付けているから!」


 タウロはドヤると性能を自慢するのであった。

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