第118話 野営の準備

 タウロは自慢のテントをさらに二つ張り、下にはふかふかの毛皮を敷いた。

 そして一つを御者に譲り、もう一つは女性陣に、大きめのテントはタウロ、シン、ルメヤの三人が使う事にした。


 灯りはさらにタウロが用意した魔道具のランタンが力を発揮したが、リーダの商人魂に火を付けるものだった。

 クズ魔石を入れると魔法『照明』を発動するランタンだ。

 高価な油と違って臭いもないし、お金もさほどかからず、とにかく明るい。

 これは、一般家庭が欲しがる一品だったのでリーダはタウロにうちと契約を!と食いつくのだった。



 食料はタウロが事前に用意していた出来立ての野菜とお肉のスープと焼き味噌おにぎり、食後にはデザートにプリンをマジック収納から出してみんなに振る舞った。


 リーダや御者の男は、野営とは思えない贅沢な食事に喜んだ。


「あ、リーダさん。経費としてちゃんと請求しますからね」


 タウロがリーダに冗談で言うとリーダは食べてたスープが気管に入って思わず咳き込んだが、


「そ、それは、責任者であるマーチェス代表に直接お願いします」


 と、自分はあくまで代理である事を強調して言い返すと、みんなから笑い声が起きるのだった。


 食後は見張りを立てて順番に寝るのが定番だが、タウロ達チーム『黒金の翼』にはエアリスがいる。

『結界師』のスキル持ちであるエアリスがテントを中心に結界魔法で周囲に結界を張るとそこはもう、安全地帯であった。

 結界内には大抵の魔物は入ってこれないし、近づいてこようともしない、万が一誰かが出入りすれば、エアリスが気づく。

 さらに結界に罠を仕掛けるかエアリスはタウロに聞いたが、流石にそれはいいと、否定した。


「改めてすげぇなエアリス」


 ルメヤが褒めると、


「でしょ!なんて言ったって冒険者ギルドにも期待される後衛のスペシャリストだから!」


 自慢げなエアリスだったが、本当にそうだから茶々は入れないでおこうと思うタウロだった。



 何事も起きる事なく夜が明けた。


 一行はタウロがまた、事前に用意した朝食を喜んで食べるとすぐに出立した。

 テントの片づけはタウロのマジック収納で一瞬なので作業がほとんどないのだ。

 一時は峠越えでのオサーカス行きは雰囲気を悪くするものだったが今は楽しい旅程になっていた。


 当初は緊張していたリーダも緊張の糸が解けて笑顔も多くみられるようになっていた。


 良い雰囲気のまま、この日の野営も無事に過ごし、ついに問題の峠に差し掛かろうとしていた。


「『気配察知』にはまだ何も引っ掛からないかな」


 タウロが馬車から降りて歩きながら確認した。

 他のメンバーも馬の負担を下げる為、登り坂に差し掛かると徒歩で両脇を固める様に歩いている。

 思ったより急勾配の坂だった。

 元々荷物を積んでいないので馬車は苦にせずに登っていく。

 いざ、山賊に遭遇して逃げる時には沢山駆けてくれそうだ。


 数時間坂を上がっていると、タウロの『気配察知』に反応があった。

『気配察知』にリンクしてシルエットを映す『真眼』を使うと十人の人影が坂を上がりきったところに待ち伏せしているのが確認できた。


「相手に『索敵』持ちがいるね。僕より先にこっちに気づいてる」


 タウロの『気配察知』は相手の感情まで察知できる反面、『索敵』に比べると効果範囲は狭いのだ。


 タウロのその言葉に三人は馬車の前に移動するとタウロと共に、馬車より先に坂を登り切った。


「本当だ、子供が混じってるじゃないか。おい、あんたら大人しく積み荷を置いて立ち去りな。そうすれば怪我せずに済むぜ」


 まとめ役と思われる剣を持った男が、現れた旅人達を見て驚いたが、慣れた様子で要求してきた。


 だが、人数は多いが、剣を持っているのは五人、残りはこん棒に木こり用の両手斧、鎌を持っている者もいた。


「スケさんカクさん、殺さない程度に懲らしめて上げなさい」


 気の抜けたタウロが、水戸のご老公のマネをして、前に立つシンとルメヤに冗談を言った。


「「スケさんカクさん?」」


 二人はタウロにふり返ると「?」という顔で聞き返してきた。


「あ、冗談だからね。とにかく、相手は素人だから死なせない程度で懲らしめて上げて」


「「わかった!」」


 二人は頷くと急ごしらえの山賊に向かっていくのだった。

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