第111話 ダンジョン話
「……ほう。思ったより立派な宿屋ですね。出来て間もない感じでしょうか?」
学者のシャーガはそう言うと宿屋に入っていく。
タウロ達はついて行かず助手の女性に、
「明日の朝、また迎えに来ますね」
と、伝えると去ろうとした。
「あ、タウロさんでしたっけ?みなさんも入って少し、お話ししましょう」
宿屋の入り口からひょこっと顔を出したシャーガに呼び止められ、入る様促された。
「中も広いですね。では皆さんお座りください。聞きたい事もありますし」
シャーガに言われるままタウロ達は食堂の椅子に座る事にした。
「私、鑑定持ちなんですけどね。タウロさん以外の三人にはそれが通じない。それに唯一鑑定が出来るタウロさんのステータスはチームリーダーと言うには不自然なほどに子供の平凡すぎるものなので逆に強力な鑑定阻害持ちなのか、それとも、私が知らないアイテムでもあるのかと気になりまして」
シャーガが村の入り口であった時、自分達をみて驚いたのはそういう事だったのかと、タウロは納得した。
そこに、荷物の積み下ろしを指図してた女性助手が入ってくるとシャーガの横に座った。
「先生、”大事”な話は私も入れて下さい」
そう言うと、
「私はシャーガの助手のジョシュナと言います」
軽くお辞儀をすると、続きをどうぞと、促した。
「このジョシュナさんは、研究に関わる大事な話には嗅覚が優れていまして、私の質問がダンジョン研究に関係しているみたいですね」
シャーガは目を輝かすとタウロの返答を待った。
タウロは、エアリス達と視線を交わすと、言うか迷ったが、マジック収納から
「これは?」
シャーガとジョシュナが目を皿にしてまじまじと欠片を見つめた。
「あなた達がダンジョンの深層にあると仮説を立てている迷宮核の欠片です」
「こ、これが!?」
シャーガ達二人は、驚くとより一層、テーブルに置かれた欠片を見た。
「鑑定が出来ない!」
「僕達はこの欠片でペンダントを作って装備しているので、鑑定阻害効果がかかっているんです」
エアリスがペンダントを首元から出して、シャーガとジョシュナに見せた。
「ほほう!よく加工できましたね!いや、それはどうでもいい。この欠片、少し譲って貰えないでしょうか?ただとは言いません、こういう時の為に、普段の予算も削りに削って用意してますので!」
ジョシュナもシャーガに頷いて、「お願いします!」と、頭を下げてきた。
「じゃあ、タダでお譲りします。ここであなたに売ったら、他の冒険者達から一人隠れて独占してたと恨みを買いかねませんから」
そういうと、マジック収納からいくつか欠片を出してシャーガに渡した。
「いいのですか!?ここだけの話、この欠片はダンジョン史上初めて迷宮核の存在を証明する貴重なもの。その価値は計り知れないですよ!?」
シャーガは驚きと共に、その希少価値について熱弁した。
「はい。大丈夫です。その代わり僕達がトラブルに巻き込まれない様にお願いします。いいですか?」
タウロは淡々とだが、念を押す様に言った。
「提供元の秘密は必ず守ります!」
シャーガは大きく頷いた。
それから、迷宮核の欠片には回復再生の付与がある事などタウロが知ってる情報をシャーガに提供した。
「なるほど……。それで得たのがこの弓ですか。今のあなたに必要と思える火力を補う武器を迷宮核はドロップしたんですね。これは大幅にダンジョン深層のあらゆる仮説が覆りますね。実に面白い!」
シャーガは本当に楽しそうに笑顔で目が輝いている。
隣の助手のジョシュナも負けず劣らず目を輝かせてアルテミスの弓を見ている。
「ダンジョンでもこのような、素材がわからない鑑定阻害される程のアイテムのドロップは例がありません。オリハルコン製の聖剣など貴重なドロップはありますが、素材がわかるだけこの弓に比べると、レア度が低いという事かもしれないです」
ジョシュナの言葉にタウロはギョッとした。
オリハルコンと言えば神が創造した物質と呼ばれる幻の金属だ。
それ以上の評価をされるとは思わなかった。
生まれたてのダンジョンとはいえ、それほど、迷宮核を破壊する見返りは大きいという事だろう。
タウロは「アルテミスの弓」の価値を改めて確認するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます