第109話 仲間の過去

 ギルドの前で行われた『黒金の翼』と『漆黒の剣』の揉め事は終止符を打った。


 と、思ったのだが、意外にも『漆黒の剣』はこの村を立ち去ろうとしなかった。


 元々、エアリスの評判を聞いて、スカウトしに来ただけのはずだったので、ここにいる理由はもうないはずだった。


『漆黒の剣』は最初、エアリスとの揉め事の後、ギルドの支部長であるクロエに面会を求め、買収してE-ランクに上がろうとしたようだが、それもきっぱり断られ、クロエにその買収の事実をバラされたくなければ、このギルドから出ていけと言われたらしい。


 普通ならそこで尻尾を巻いてダンサスの村を後にするはずなのだが、この四人の凄いところは反骨精神に火が付いた事だろう。


 イラツークがリーダーの代わりに、


「実力で思い知らせてやる!」


 と冒険者ギルド支部長であるクロエに捨て台詞を吐いて、ギルドを出ると、クロエ肝煎りのギルド運営『憩い亭』に泊まったというのだから神経が図太い。

 というか無知なだけか。


 翌日から、『漆黒の剣』は殊勝にもFランク帯クエストを真面目にやり始めた。

 だが、そこでチャラい『魔導士』スキル持ちの男が、薬草採取クエストは格好良くない、ダルい、と言い始めて、あっさりチームを抜けてダンサスの村を後にした。


 予想外のメンバーの脱退に他のメンバーはショックを受けて、一日、宿屋の部屋から出てこなかった。


 このまま空中分解だろうと冒険者達は噂し合った。

 低ランクでのチームにはよくある事だ。

 理想と現実の差に仲間内で喧嘩になり、チーム崩壊するパターンだ。


 翌日。


 ナシルスが、『憩い亭』の食堂で仲間を集めると一人、演説を始めた。


「このまま、『黒金の翼』やこのギルドの支部長に不当に馬鹿にされ続けていいのか!?いや、駄目だ!僕達は汚名を晴らす為にもこの試練を乗り越えて、英雄への階段を登るんだ!一人減ったが僕達ならやれる、さぁ、力を合わせる時だ!」


 イラツークとビチナはこの演説に感動したらしく涙を流しながら抱き合った。


「……泣ける部分あったかしら?」


「……僕達が、不当に馬鹿にした事になってるね」


 現場に居合わせたタウロ達四人は、自分達がダシに使われた事に納得がいかなかったが、放っておこうということで、食事を続けるのだった。


 他の居合わせた冒険者達はこの安い三文劇に黒金の面々に同情するか、笑って黒金を茶化して酒の肴にするのだった。




 その日の夜。


 エアリスが真面目な表情でタウロの部屋をノックした。


「ちょっといい?」


 エアリスの声にタウロはすぐに部屋から出てきた。


 普段食事をしているテーブルの椅子に座るとエアリスも座り話し始めた。


「……話しておきたい事があるの…、私、実家が、貴族なの」


「何となくそんな気は前からしてたよ」


 タウロは思うところがあったのか、驚かずに答えた。


「……いつから?」


「国が管理するダンジョンに詳しい時点で、貴族かその関係者だとは思ってた」


「……そっか」


「だからわかったと思うけど、貴族だからといって、扱いは変わらないよ。エアリスはエアリスだからね。……あ、もしかして逆に待遇改善して欲しい?」


「そ、それはないから!……ありがとう、タウロ。……これからもよろしくね」


 エアリスがしおらしくお願いした。


「うん、よろしく。でも、なんで冒険者になったの?」


 タウロはそこは気になった。

 エアリスはまだ十四歳だ、その歳ならまだ、学校に通ったりして楽しい時期のはずだ。


「父がダンジョンで失踪してね、私しか子供がいなかったから、母が家名を守る為に婚約者を連れてきたんだけど、その男が酷い事に母の浮気相手だったの。だから、家を飛び出してきたの」


「……それはまた……、酷い話だね……」


 自分の間男を娘にあてがうとは、自分の今の立場を余程守りたかったのだろう。

 もしかしたら、家名を守りつつ、間男と子供を作って男なら家を継がせる気だったかもしれない。

 想像したくないが、間男を婚約者にする時点で薄情さがわかるというものだった。


「父からは生前、冒険者の話をよく聞いていたから、生きるなら冒険者として!と思ったのがきっかけよ」


「話しづらい事を聞いてごめんね」


 タウロは謝罪した。


「ううん、タウロに話せてすっきりした。聞いてくれてありがとう」


 エアリスはタウロにお礼を言うと深々と頭を下げるのだった。

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