第107話 黒金、絡まれる

 翌日の朝。


「すまん、つい飲み過ぎて話しちまった」


 顔見知りの冒険者がギルドの出入り口で、すれ違い様にタウロに拝み手をしながら詫びると出て行った。


「?おはようございます」


 タウロ達は何の事だろうと思いながら、挨拶をしてギルドに入ると、いつもの様に掲示板前に集まって、どのクエストを受注するか話し始めた。


 そこに、例の四人が現れた。


「君達が『黒金の翼』だったとはね!すっかり騙されていたよ」


 リーダーのナシルスが大袈裟にため息をつくと被害者面をしてみせた。


 どうやら、冒険者達のたまり場、『憩い亭』でお金をばら撒いて情報を入手した様だ。

 表で詫びてきた冒険者はお酒を奢って貰って酔った勢いで自分達の事を話したのかもしれない。


「……?聞かれていないから答えなかっただけなのに、騙されたと思うのは筋違いですよ?」


 タウロがチームを代表して答える。


「下っ端のガキは黙ってな!俺達はそっちのリーダーのエアリスに言ってるんだよ!」


 イラツークが切れ気味にタウロを恫喝した。


「……」


 タウロはエアリス達と目を合わせると、


「だってよエアリス?」


 と、笑って見せた。


「何だこのガキ、舐めてるのか!」


 イラツークを歩み寄るとタウロの髪を掴もうと手を伸ばしてきた。

 タウロはその手を叩くと一歩下がった。


「ギルド内での暴力はご法度だという事も知らないの?冒険者としてのルールは守ろうね」


 そこに、状況を見ていた支部長のクロエが、


「ギルド内で暴力を働いたら、最悪の場合、冒険者の資格をはく奪しますよ『漆黒の剣』さん」


 と、言い放った。


「手を出したのこいつだろ!」


 イラツークが、怒気を撒き散らした。


「あなたが手を出したから叩いたようにしか見えませんでしたよ?」


「くっ!」


「まぁまぁ、イラツークも君も落ち着きたまえ。喧嘩両成敗だよ」


 リーダーのナシルスが、さも、立派な仲裁者であるかのように割って入ってきた。


 タウロはいたって冷静な上に、自分にも責任があるかのように言われたので、この人、大丈夫かな?と思った。


「表に出なさいよ!私達の強さを思い知らせてやるわ!」


『漆黒の剣』の紅一点、ビチナが、イラツークの代わりに挑発してきた。


「クエストを選んだら表には出るわよ。あなた達を相手にする暇はないけど。せめてEランク帯に昇格してから来て頂戴」


 エアリスはタウロの考えを察したのか挑発に乗らず、控えめに拒否した。


「ビビったのか!リーダーが腰が引けてたらざまぁないな」


 イラツークが再度挑発してきた。


「何を勘違いしてるのかわからないけど、『黒金の翼』のリーダーは、このタウロだから」


 エアリスは、自分より心持ち背が低い少年を指した。


『漆黒の剣』の面々は驚いて一瞬声を失った。


「ははは。荷物持ちの少年をリーダーとは、面白い冗談だ」


 リーダーナシルスが気を取り直すと真に受けず、答えた。

 どうやら、タウロがマジック収納持ちという情報も掴んでいる様だ。


 タウロが荷物持ち呼ばわりされた事にエアリスはカッとした。


「タウロは、れっきとした私達の立派なリーダーよ。そちらの自己陶酔の勘違いとは違ってね!」


 エアリスが言い放つと、シンとルメヤもそれに頷いた。


 エアリスさん、話が拗れるからヤメテー!


 タウロは内心でツッコミを入れるが、仲間である自分を思っての発言なので自分も前に出ざるを得ない。


「他のみなさんに迷惑なので外に出て貰っていいですか?話はその後でお願いします」


 周囲を見渡せば他の冒険者達が二チームを取り囲むように見ている。


 ここで、やっと『漆黒の剣』は、見世物になってる事に気が付くと、では、先に出る、と言い残すとそそくさとギルドを出ていった。


 それを見送ると、


「お騒がせしてすみません。それではみなさん、今日もクエスト頑張りましょう!」


 と、タウロが声をかけるとドッと笑い声が起きた。


「どうするんだ、黒金?あいつらやる気満々だぞ?」


「頭悪そうなのに絡まれたな!」


「貴族らしいから、厄介そうだな」


 冒険者達が声をかけてくる。


「うちは、相手するとは一言も言ってないので、クエストを選んだら裏から出かけます」


 とタウロが答えると、また、ロビーは笑いに包まれた。


「……確かに、出ていけとしか言ってなかったな」


「小賢しい事いうなぁ!」


「これは一本取られたな!」


 笑いでギルドが一体になる中、タウロ達はクエストを受注すると本当に裏から出ていくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る