第106話 ライバル出現?
新生活が始まって一週間が経った頃の夕方。
薬草採取クエストと、ゴブリン討伐クエストの完了を報告しに、タウロ達『黒金の翼』がギルドに丁度戻ってくると……。
「その『黒金の翼』って、どんなチームか教えてよ?」
「俺達、『漆黒の剣』のライバルになれるか興味あるんだよね」
「そのチームの中心のエアリスって子はかわいいの?」
「ちょっと!容姿は関係なく血筋と才能で引き抜くんだからね?」
新人受付嬢、鑑定スキル持ちのカンヌが、四人の若い冒険者に絡まれていた。
新人と言っても以前の職場でも受付嬢をやっていたので厳密には新人ではない。
なので、対応は笑顔でありながらも冷静だった。
「個人の情報は教える事は出来ませんよ。あと、他の冒険者のご迷惑になるので、他に用件が無ければ受付の前を空けて下さいね」
チラッとタウロ達が視界に入り気が付いたが、敢えて何も言わない。
そして、名前を敢えて呼ばず、
「みなさんお帰りなさい。クエスト完了の報告ですか?」
と、対応した。
若い冒険者四人は、邪魔者扱いされたので、ムッとした顔をしていたが、タウロは気づかないフリをして、クエストの報告をする。
するとエアリスが、
「あんた達、邪魔よ。もしかして、ギルドの常識も知らない素人なの?」
と、あからさまに馬鹿にした。
エアリスさん、受付嬢カンヌさんが気を遣ってくれたのに絡んでいくの!?
タウロは内心でツッコミを入れる。
「なんだと!この……、お?君、かわいいね♪」
先程、まだ見ぬエアリスの容姿を気にしていた男だ。
杖を持ち、服からも魔法使いと一目でわかるが、金色の長髪に前髪で片目を隠し、格好つけていて、とにかくチャラさ全開だった。
「二度も言わせないで、邪魔だからどきなさいよ」
エアリスはチャラ男魔法使いの褒め言葉を無視した。
「口の利き方に気をつけなさい。私達は新人冒険者チームの中でも一番注目されてる『漆黒の剣』よ!?」
四人の中の紅一点らしい胸元の露出度が高い、赤いショートヘアーの盗賊職と思われる女が、エアリスが年下と見て、高圧的に言い返してきた。
「……その名にどれだけの価値が有るの?冒険者は実力主義の世界。貴族出身だったら偉いというわけじゃないと思うけど?」
エアリスは四人の装備が高いものである事に気づいて貴族の子弟と見極めていた。
「おいおい、冗談だろ。貴族は貴族でもリーダーであるキエール子爵の次男で『ナイト』持ちのナシルス殿と、キーモル男爵の三男で同じく『ナイト』持ちである俺、イラツークが偉くないわけがないだろう!」
新人とは思えない高そうなプレート鎧を着ている男、イラツークが自慢気に言った。
「僕達はみな、貴族として高貴な血が流れているだけでなく、特別なスキルを持って生まれた、選ばれた者の集まりなんだ!」
自分に酔ってるこのもう一人のプレート鎧を身に纏った自己陶酔者がリーダーのようだ。
この四人はナイト(戦士系上位スキル)二人、追跡者(盗賊系上位スキル)一人、魔導士(魔法使い系上位スキル)一人の構成で確かにどれも特別なスキルではある。
高級な装備はもしかしたらスポンサーが付いてるのかもしれない。
新人に付くのは珍しいが、貴族の子弟、特別スキル持ちという事で、コネも含めて付いたのかもしれない。
「それとこれとは別でしょ。ギルドの常識が無いただの初心者じゃない」
エアリスは的確に指摘する。
確かに、この四人、見た目の全てが新し過ぎて経験が浅いと思われた。
「失敬な!俺達はここに来る途中、遭遇したゴブリンも倒してるのだ!」
気が短いと思われるイラツークが噛みついて来た。
「そうだ!僕達はすでに実戦経験を積んだ立派なFランク冒険者さ、君達子供とは違うのさ」
そう言うと、ナシルスはゴブリンとの戦いを語り出した。
まるで、英雄譚を語る様な壮大な表現で話し始めた。
よく聞くと相手ははぐれゴブリンの一匹だけだ。
長いが、早い話、四人で袋叩きにしただけのものだった。
一人語るナシルスを無視し、エアリスははっきりと、
「つまりFランク帯の駆け出しじゃない。見たところどうせ、Gランクはお金で解決したんでしょ、あまりに常識が無いもの」
と、言い切った。
図星だったのか、イラツークが動揺しながら、
「俺達レベルには相応しくなかっただけだ!俺達が活躍できるEランク帯に上がればすぐに他の冒険者達は頭を下げて道を空ける事になる!」
と、お金で解決した事をほぼ認めた。
ずっと無視して手続きをしていたタウロは報酬を貰うと、
「じゃあ、終わったからみんな帰ろうか」
と、何事も無かったかのように3人に報酬を配ってギルドを出ていった。
「ちょ、ちょっと待て!」
イラツークの声が虚しくロビーに響く中、残された『漆黒の剣』はまだ続くリーダーの一人語りが虚しかった。
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