第94話 捜索クエスト

 エアリスに杖をプレゼントした翌日の朝。


 タウロ達E-ランクチーム『黒金くろがねの翼』通称『黒金』はE-ランク最初のクエスト受注の為ギルドにやって来ていたが、受付で何やら騒ぎになっていた。

 見ると、D-ランク冒険者で村の英雄、犬人族ボブの彼女の猫人族モモが新人受付嬢に何か必死に訴えていた。


 騒ぎに支部長のクロエ、副支部長シロイも加わり短い話し合いに入るとクロエが、真剣なトーンで、


「緊急クエストです。内容は三日前から連絡が無い急造のDランク冒険者チームの捜索、保護。場合によっては、遺体回収も含まれます」


 とロビーの冒険者達に向けて言った。


 ロビーがざわつく中、クロエの最後の言葉にモモがその場に泣き崩れた。


「そのチームは何のクエストを受けたんだ?」


 冒険者の一人が情報を要求した。


「ここから半日のところにある山村からの依頼で、最近出没するオークの調査、討伐でした。チームのメンバーは、トム、サム、アン、そして、ボブです。山村から緊急連絡がたまたま村の入り口にいたこのモモさんにあって報告されたそうです。何でもチームが向かった山から赤い狼煙が上がったと」


 赤い狼煙は冒険者達が危機の時に上げるもので、実際は上げる前に死ぬ事の方が多いので滅多に見られる事はないが、冒険者ギルド共通の緊急連絡方法だった。


 冒険者はお守り代わりにギルドから小さい赤い袋を、Eランク帯からの一部のクエストを選ぶと持たされている、タウロ達もEランククエストによっては渡される予定のものだった。


 タウロはクロエの言葉に驚きを隠せなかった。

 ボブがチームに入っていたからだ。

 モモは彼氏のボブが予定した日から戻らないので、心配で村の入り口で帰ってこないか待っていたのではないだろうか?

 そこに、緊急の連絡をしに山村から村人がやってきた。

 モモはボブの危機を第六感で感じたのかもしれない。

 猫人族はその手の勘が鋭いらしいのだ。


 タウロはモモの手前、この緊急クエストを断る選択は無かった。


「……みんな、このクエスト受けたい」


 振り返ると三人に確認した。


「「「OK!」」」


 三人は間髪を入れずに承諾してくれた。


 そして四人は手を上げると、


「「「「チーム『黒金の翼』行きます!」」」」


 と、宣言した。


 その若いチームに続く様にB-ランクチームも挙手、Cランクチーム、D-ランクチームも挙手した。


「本来ならE-ランク成り立ての『黒金の翼』は、外すところだけど、探索に人手は欲しいので、行って貰います。無理だけはせず、周囲のチームに頼るように。それでは準備の出来たチームから現場に急行して下さい」


 クロエがタウロ達に釘を刺す様に言った。


「はい!」


 チームを代表して、タウロが返事をすると、すぐに出発の準備に移った。




 チーム『黒金の翼』は準備らしい準備はほとんどしなかった。

 タウロのマジック収納に必要なものは入っているからだ。

 なので、いざ出発してみるとB-チームに続いて二番手で山村に到着していた。


「早いじゃないか、俺達もさっき着いたばかりなのにやるな。威勢だけじゃないようだ」


 B-チームのリーダーがタウロ達を感心して褒めた。


「早速だが、村人が言うにはあの山から赤い狼煙が上がったらしい」


 指さす先に山村を見下ろす山があった。


「お互い手分けして探す。俺達はあの周辺を、お前達はその左側を頼む、後の連中は村人から伝えて貰うとしよう」


 山を指さしながらB-チームリーダーが指示した。


 タウロ達は頷くと、


「わかりました。すぐ、向かいます」


 と、タウロが代表して答えると三人に頷いて現場に向かう事にした。



 タウロ達は山村から見て左側から山に入った。


 木は高く草が生い茂り、視界は良好とは言い難い。

 だが、タウロの気配察知があるので、予想外の遭遇はないだろう。


「タウロ、どう、何かいる?」


 エアリスが先頭のタウロに話しかけた。


「動物の影はあるけど、今は……、あっ。このシルエットはオークだ。この先に二体いるよ」


 全員に緊張が走る。


 Eランク帯のチームにとって、オークは格上のDランク帯討伐対象だ。

 オークは豚の容姿をした人型の魔物で口から牙を生やしているのも特徴だ。

 力が強く、頭もそれなりに良い。

 ゴブリンの様に武器を持って戦い、時には徒党を組む事もある。


 二体ともこん棒を装備してるのをタウロは『真眼』で視たシルエットで確認した。


「ここは避けていこう。今は不明のボブさん達を探すのが優先だ」


 四人は頷くとタウロの誘導で迂回する事にするのだった。

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