第80話 行商人の災難
行商人マーチェスは、村で商品を仕入れると、その商品を売りさばく為と取引で商会からお金を出して貰う為に、また大きな街に出かけて行った。
その背中は自分のこれからの輝かしい未来への自信に溢れていた。
成功者とはこういうものかもしれない。
と、タウロは見送った。
次帰って来る時は大金を手に戻り、この村の商人としてまた躍進する事になるはずだ。
数日後、マーチェスは馬車を飛ばして戻ってきた。
余程、お店を持つ事が楽しみだったのだろうか?
と、思ったのも束の間の事だった。
よく見るとマーチェスは血相を変えており、馬車の積み荷は、出かけた時にこの村で仕入れた時のままだった。
マーチェスは、タウロに声をかけられて馬車を止めた。
「どうしたんですか?血相を変えて」
「タウロ君!今すぐ、土地の持ち主に会う手配をしてくれ!」
「何かあったんですか?」
「今は急ぐんだ、その時話すから!」
マーチェスは余程慌てているのか目は血走っていてあまり寝てない様だ。
「落ち着いて下さい、今から地主の方を呼んできます」
タウロは走って地主の元に駆けた、これはただ事ではない。
「……それで、お金を返して貰えないでしょうか!?」
マーチェスは土下座をして地主に直訴していた。
「ちょ、ちょっと!あなたの提案で契約しましたよね?返せと言うのはまた、筋が違うでしょ!」
地主はマーチェスの手のひら返しに憤りを感じ始めていた。
「そこをなんとか!このままでは自分は破産してしまいます!」
本当に何かあった様だ。
マーチェスは必死に地主にすがりつく。
「あなたの個人的な理由は知りません。こちらはあなたの提案する契約を結びました。期日までに全額支払って下さい。じゃなければ手付金は全て頂きます!」
地主は憤慨するとその場を後にした。
マーチェスはなお、地主にすがりつこうとしたが、タウロに止められた。
「とにかく何があったのかちゃんと一から説明して下さい!」
タウロは正気を失っているマーチェスを落ち着かせた。
絶望に打ちひしがれたマーチェスだったがぽつぽつと話し始めた。
マーチェスが支援して貰う予定だったダマスキー商会代表は契約を結んできた事を知ると、急に手のひら返しをし、いつも通りに商品は買い取らず、資金も出さないと言い切った。
口約束だけで契約を結んでいなかった事を盾にダマスキー代表はとぼけてみせ、最後には君がそのまま破産するのなら我が商会がダンサスの村との取引をそっくりそのまま頂くとまで言い放ったようだ。
勝ち誇ってベラベラとしゃべったものだ。
最初からそのつもりだったのだろう。
一介の若い行商人が大きい利益を得てる事が気に食わなかったのかはわからないが、罠にかけてその利益を自分達がそのまま貰うつもりだったのは確かだろう。
マーチェスはまんまと嵌められたのだ。
このままではマーチェスは全財産を失い在庫を抱えたまま破産するだろう。
今まで商品を卸していた相手はダマスキー商会だ、それを失い、独占契約をしていた取引先にも迷惑がかかる。
そこへダマスキー商会が乗り込んで来て自分達に都合が良い契約を結ぼうとするだろう、手口は相手がばらしてくれている。
もちろんそうはさせない。
「マーチェスさん、残りのお金は僕が出します。」
……
「……え?」
マーチェスは意表を突かれて一瞬理解できなかった。
「あ、もちろん、貸すのであって、ちゃんと返して貰いますよ?」
「……あ、うん。って、そうじゃなくて、結構な額なんだけど!?」
マーチェスはまだ理解が付いていかないのか混乱していた。
「じゃあ、これ」
タウロは理解して貰う為にマジック収納からお金が入った革袋を出した。
マーチェスの手にそれを握らせると、
「これはマーチェスさんへの投資です。あと、この事は僕達との間での秘密でお願いします。念の為、契約書にサインして貰いますね」
「え、……はい、喜んで!」
前世の居酒屋で聞いた覚えがある台詞に懐かしいなと思いながら、タウロは頷くと今後の事についてマーチェスと話し合う事にしたのだった。
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