第79話 ワーオ♪

 タウロの提案はこうだ。

 現在宿泊してるお客には宿屋側が近くの空き家を数件借りて現在の宿泊料で一時移動して貰う。

 その間に、食堂を除く宿泊施設をリフォームしてしまおうというものだった。


 食堂は連日人気なので、そのまま営業する。

 それなら収入も一気に下がる事もないだろう。

 現在、『名無しの宿屋』は、とにかく壁が薄い。

 泊まるだけの者には料金が安いから狭いのは我慢できるとして、夜中の隣人の音に目が覚めるし、室内での作業音(ワーオ♪)が筒抜けになるなど、色々と宿泊客には困る事が多い。


 ずっと宿泊しているタウロも、ポーション作りや、特別盤作りなどの作業音も気にしながらやっていた。


 これらを指摘させて貰うと、女主人はぐうの音も出ないといった顔をした。


「……わかったよ。いずれはしないといけないとは思ってたんだ。最近は客足が伸びて貯金できてるからやってしまおうかね」


 こうして、『名無しの宿屋』もリフォームする事になるのであった。




 タウロの指示の元、この宿屋を利用していた冒険者と木工屋の大工が加わりリフォームはスムーズに短期間で終わった。


 女主人と相談してこの宿屋も二階建てになった。


『憩い亭』との差は、狭いが安い、とはっきり違いをつけた事だろう。


 名前も名無しの宿屋から『小人の宿屋』へと、変更した。


 二階の一部の部屋には広めの部屋も三部屋用意した。

 こちらの宿屋を好んで利用してくれる家族連れの宿泊客もいたのだ。


 あとは以前と同じ狭い部屋を沢山作ってあった。

 今のところ、宿泊客は右肩上がりで、今後も増えると予想しての事だった。


 そして何より、壁が厚いので音漏れが以前より格段に減少した。

 これにはタウロもニッコリである。

 これで、作業音(ワーオ♪)も、多少は気にせずにすむだろう。

 ※あくまでもポーション作り等の音です。



 宿泊客からはおおむね評判は良かった。


 女主人はホッとした。


 今までのままだったら、『憩い亭』にお客が流れる可能性があった。

 もちろん、それは実際いたのだが、それ以上に増えたお客の方が多かった。

 部屋も増えたので、収容人数は上り、売り上げもうなぎ登りに女主人もタウロに感謝するのだった。




 村がどんどん発展する中、その流れに一番乗っている男がいた。


 行商人の青年マーチェスである。

 鍛冶屋と木工屋との独占契約と貴重な薬草の取引で短期間で利益を上げ続けていた。


「やあ、タウロ君じゃないか!元気にしてた?」


「あ、マーチェスさん今月はまた早いお越しですね」


「実はね、この村にお店を構える事にしたんで、良い物件を探しに来たんだよ」


 つい数か月前までは細々と商売をしていたのに、もう、お店を持つのだと言う。

 流石に勝負を掛けるには早すぎるのではと思った。


「ふふふ。今、心配したよね?実は、大きな街の商会の商会代表に目をかけて貰ってね。元々、取引相手だったんだけど、この村にお店を持つなら一部資金を出すって言われたんだ」


「そんな良い話を?」


 タウロは、少し不審に思った。


「代表が言うには、行商人と店持ちの商人とでは信用度が違うと言われてね。今後も取引をするなら、ちゃんとお店を持って、地に足を付けた方が良いとアドバイスを受けたんだ」


 確かに言われてみれば、行商人よりも店持ちなら安心して取引もし易いかもしれない。

 が、その資金を一部出してくれるとはかなりの太っ腹か、マーチェスが余程その商会代表に気に入られたのか……。


 まぁ、商人であるマーチェスがその目で信じる相手との約束で店を持つのであれば、止める理由は無い。

 タウロは村長にマーチェスを引き合わせて、良い物件を紹介してくれるようお願いした。


 村長としては、村内にお店が出来るのは喜ばしい事だ。

 すぐに冒険者ギルド運営の『憩い亭』の数軒隣の物件を、持ち主に交渉してマーチェスが購入できるよう話をつけた。


 マーチェスにはまだ信用がない、そこで、ちゃんとお金を全額支払った後で土地を譲って貰う事とし、自分の全財産を手付金として支払うと、期日までに、残りも商会から貰って来て支払うと契約を交わした。

 期日が守られなければ手付金は違約金として支払う事も信用して貰う為、契約時にマーチェス側から提案して持ち主に信用させた。


 これらも、マーチェスが商会代表にアドバイスされたそうだ。

 商人が短期間で相手から信用を勝ち取る為の技らしい、さすが商人、相手の頬をお金で叩くやり方は前世とも共通する。


 タウロは納得してこの当人同士の契約を見守るのだった。

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