第28話 父親退場
父親が怯える相手、一人は短髪で目尻に傷、もう一人はスキンヘッドで大柄、二人とも質素な服に身を包み、剣を下げていた。
目尻傷の男は、タウロを一瞬見て値踏みすると、
「君がタウロ君かい。君のお父さんは、うちに借金があってなぁ。払って貰わないとおじさん達も困るんだよ」
と、笑顔で優しく言ってきた。
だが、目は全く笑っていない、演技なのはすぐわかった。
「聞けば、君は大金を持ってるらしいじゃないか。お父さんの為にも代わりに借金を支払ってくれるとおじさん達も、君のお父さんも助かるんだよ」
これは多分、まともな金貸しじゃない、とタウロは判断した。
村からこの街まで数日の距離がある。
ここで断っても、元を取らずにタダで帰るとは思えなかった。
「……借用書はありますか?」
子供の口から予想を超える言葉にギョッとする二人だったが、
「も、もちろん、あるよ」
目尻傷の男が懐から一枚の紙を出してきた。
ひらひらと見せたが、すぐに引っ込めようとした。
「それ、借用書ではないですよね?」
「何を根拠に言うんだい坊や。字が読めないからって適当な事を言っちゃいけないなぁ」
笑みは浮かべているが目が鋭くなった。
「字は読めます」
父親と目尻傷の男は、話が違うと言わんばかりに視線を交わした。
「見たところ、それは、あなたの上司からの指示書ですよね。最初は優しく話しかけてお金をどのくらい持ってるか探り、長期的に出させられるかも探れ、取れるだけ絞り取れ、ですか。借用書も無いのに払わないですよ。と言っても、この人を父親とは思ってないのであっても支払いませんが」
「ふざけるな!親に恩を返せ!」
父親がすがりつく様に叫ぶ。
失敗すれば、命が無いのかもしれない、必死さが伝わってきた。
「それに、さっきもその人に言いましたが、売却金は一部使用し、残りは全て寄付しました。その後、働いて得たお金はありますが、それを出す気はありません」
大金がすでに無い、取り立て屋の二人は顔を見合わせた。
「……おいおい、ソーク。色々と話が違うんじゃないか?」
もう、目尻傷の男に笑顔は無かった。
「ちょっと待ってくれ!きっとこいつが嘘をついてるんだ!」
必死になってタウロを指さした。
「この街では、ミスリルの売却金の行方について、誰もが知っています。一部を使用したのはこのお店ですし。その辺りの人達に聞いてみて下さい、それが証拠ですよ」
街が誇る善良な子供冒険者タウロが何やら柄が悪い連中に絡まれていると、雰囲気で感じ、聞き耳を立てていた従業員達が、
「そうよ!サトゥー君はこのお店でみんなに沢山奢って、残りを全て孤児院に寄付したわ!有名な話よ!」
「そうだ!その子は、お世話になった人達に大枚を払ってお礼をする義理堅い子なんだぞ!」
と、声を上げてくれた。
そこにここのお店の女将である人物が現れた。
「こらこら、あんた達、他のお客様の前で失礼よ。お客様、タウロ君に何かあると、この街全体が敵になるのでお気をつけ下さいな。あんまりご無理をなさらない方が身の為ですよ」
ニッコリと笑うと鋭い眼光を男達に向けた。
さすが元冒険者の女将である、丁寧なのに迫力がある。
タウロにとって予想外の援護射撃だった。
父親と二人は分が悪いと思ったのだろう、慌てて出ていこうとする。
すると、タウロは取り立て屋を呼び止めた。
「縁を切ったとはいえあの人がご迷惑をおかけしました、お二人は上の命令でこんなところまで来たからにはただでは帰れないと思います」
父親はすでに逃げ出していなくなっていた。
「これはぼくからの迷惑料です、領収書は要りません」
というと、懐から金貨を一枚出すと目尻傷の男に投げて渡した。
10歳とは思えない雰囲気に気圧された二人は、金貨を慌てて受け取ると、父親を追ってお店から走り去っていった。
タウロはお勘定を済ませると、援護射撃にお礼を言い、お店を後にするのであった。
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