第27話 父親登場

 タウロは今日も朝から日課であるギルドの仕事を手伝っていた。


 しばらくすると、クエストを受注した冒険者達がどんどんクエスト先に向かい、ロビーの喧騒も穏やかになりつつあった。


 仕事が一段落した自分もクエストを選ぼうと、張り出してある掲示板を見ていた矢先だった。


 そこに冒険者ではないとわかる一般人と思われる男性が入ってきた。


 タウロは気配を感じたが気にせず、クエストを探している。

 と、一瞬立ち止まったのがわかったが、受付に向かわず、足音がずんずんと自分の背後に近づいてくる。

 露骨な悪意を感じ、その気配が近づいてきたので警戒して振り向くと、そこには、タウロの父親が立っていた。


「ここで、何をしている!家から逃げ出しやがってこのクソガキ!」


 タウロだとわかって、なじると殴りかかってきた。

 タウロは咄嗟に条件反射でその拳をかわしていた。

 父親はかわされた拍子に転ぶ。


 かわされてかっとなった父親は


「誰がかわしていいと言ったんだ!この野郎!」


 と言うと掴みかかってきた。

 タウロはそれも、ひょいとかわす。

 今度は勢いのあまり、よろける父親。


「ちょっと、何をしているんですか!」


 受付のネイがその男をとがめた。


 残っていた冒険者も、


「ギルド内で暴力はご法度だぜ、おっさん!」


 と、とがめるとタウロの父親は大人しくするしかなかった。


 だがすぐに気を取り直すと


「お前の住処はどこだ!荷物をまとめろ、帰るぞ!」


 と、タウロを怒鳴りつけ手首を掴む。


 だがタウロはすぐに振りほどいた。


「あそこに帰るつもりはありません」


 タウロはきっぱりと答えた。


 息子の反抗に驚くと、また、父親はかっとなり、


「誰に口を聞いてやがる!」


 と、また、殴りかかった。


 タウロはうんざりしたようにそれをまたかわす。


 この男は何も変わっていない。


 ため息が出る思いだった。

 よろける父親のお尻を蹴り上げたい気持ちだったがここはギルド内、暴力沙汰はご法度だ、ぐっとこらえた。


「ここでは、みなさんにご迷惑がかかるので外に出て話しましょう!」


 父親は、「誰に指図しやがるんだ!」と、言いかけたが、受付のネイや、残っていた冒険者が睨んでいるのに気づくと委縮し大人しく従うのだった。


 ネイがタウロを心配してついてこようとしたがタウロが首を振って断った。

 親子の問題だ、ネイには迷惑はかけられない。




 隣のギルド運営のお店、『安らぎ亭』に移動し席に着くや否や、父親は、


「ミスリルを売った金はどうした!?勝手に寄付しやがって!お前の物は親である俺の物だろうが!残りをこれまで稼いだ分と一緒に出せ!」


 と、怒鳴った。


 はぁ


 やっぱりこうなった、と、タウロは思った。

 きっと、噂が村まで届いたのだろう。

 大金が関わる話だ、今まで忘れていただろうに、急に親の立場を復活させたようだ。


「ミスリルを売ったお金は一部使用し残りは、全て寄付しました。これまで自分で稼いだ分は自分の物なので渡す気はありません」


 丁寧に断ってみせた。


 その言葉に、父親はまた、かっとなって机越しに掴みかかるが、タウロは手を振り払った。

 いつになったら、この男は無理だと気づくのだろうか?


「この薄情者が!親への恩を何だと思ってやがる!」


 少し学習した様だ、今度は情に訴えてきた。


「ぼくには毎日蹴られ、殴られた記憶しかないです」


 もちろん心動く事なく、タウロは答えた。


「それはただのしつけだ!それに毎日食わせてやっただろうが!」


「それは親として、最低限の義務ではないですか?それを果たさない時もあったと記憶してます」


 いい加減、しつこいので皮肉を返した。

 そこに、二人の男が入ってきた。

 こちらに向かってくる。


「ソーク、息子からお金は貰えたか?」


 なるほど、そういうことか。


 タウロは何となく察した。


「これから出させるところなので待っててくだせぇ」


 露骨に怯えて下手に出る父親だった。


 これはどうしたものか、タウロは考えを巡らすのであった。

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