第19話 受付嬢のお見合い話

 ゴブリン討伐緊急クエストから、数日が経った。

 タウロはいつも通りクエストを選び、受付に持って行く。

 いつもならネイがいる場所の受付に違う男性職員がいた。


「あれ?」


「あ、タウロ君ご苦労様。ネイさんならさっき、緊急で席を外したよ」


「緊急ですか?」


「……ここだけの話、ご両親が突然来たらしいよ。お見合い話だとか言ってたよ」


 タウロの耳元に近づいて職員はつぶやいた。


「……それは一大事ですね」


「だよね。ネイさん狙いの冒険者は多いからね」


 そう、ネイは冒険者に人気がある。

 美人だという事もあるが性格も明るくいつも笑顔で冒険者達の活力になっている。

 そんなネイにタウロはかなり優しくして貰っているが他の冒険者達は嫉妬する事なく、これを好意的に見ていた。

 飢え死にしそうだった子供を1人助け、その後も何かと世話をして上げている優しい女性と映り、助けられたタウロもまだ小さいし、頭が良い事も鼻にかけず、素直な性格でしっかりしてるので悪い印象を持たれていないのだ。


 男性職員とタウロのやり取りが近くにいた冒険者の耳に入った。


「ちょ、ちょっと待て!今の話、本当か!?」


 大きな声がギルド内に響く。


「どうした?」


「何かあったか?」


 ざわざわ


 ギルド内がざわつき始める。


「……みんな聞いてくれ、ネイさんにお見合いの話が来てるらしい……」


「「「何ー!?」」」


 ギルド内は、一気に騒然となった。


「俺のネイ嬢が!」


「お前のじゃねぇよ!みんなのだよ!」


「畜生!冒険者引退だこの野郎!」


「早まるな!お見合いが失敗する事を祈ろう!」


 大の大人が泣き始めた。

 タウロはこの光景に、正直ビックリだったが、それだけネイが好かれているという事だろう。

 温かく見守る事にした。


「サトゥー、お前何か聞いてないのかよ?」


 1人の若い冒険者がタウロに話を向けてきた。


 一気に冒険者達の視線が集中する。


「……いや、ぼくは何も聞いてないです……」


 はぁ


 ギルド内に冒険者達のため息が響いた。


「お前は何の為にネイさんに可愛がられてるんだ。使えねぇな。……はぁ」


 とんだとばっちりである。

 これは温かく見守る事はできなさそうだった。


「よし、サトゥー。今日はお前、ネイさんを尾行して俺達に結果を報告しろ」


「いや、ぼく、もうクエスト申請したから駄目ですよ」


 タウロは男性職員の方に助けを求める様に視線を送った。


 男性職員は視線に気づくと、


「あ、まだ、このクエスト事務処理終わってないから大丈夫だよ♪」


 満面の笑みで、グッドサインを送ってきた。


 仕事しろ、マルコさん。


 男性職員マルコの職務能力に疑問を残しながら、タウロは冒険者達の依頼を受ける形でネイを尾行する事になった。


 が、しかし、そんな事をしたら、バレた時、絶対ネイさんに怒られる。

 そう感じたタウロは、隣の冒険者ギルド運営のお店で丁度、両親と食事をしていたネイに直接聞く事にした。


「あ、タウロ君、どうしたの?お見合い?ああ!──お母さんが変な事言うから、変な誤解招いたじゃない」


 ネイが母親に笑いながら注意すると続ける。


「タウロ君、両親は私の顔を見るついでに観光しに田舎から出てきたの。私に秘密で出てきてたから驚いたんだけど、その時に、お母さんが『彼氏がいないなら、お見合いでもしたら』って、冗談を言ったのよ。それを誰かが勘違いしたのね」


 マルコさんの早とちりかよ!


 いよいよ、タウロはギルド職員マルコの職務能力を疑った。


「ごめんなさいねぼく。この子ったら、聞けば浮いた話の1つも無いって言うから、ついつい」


 ネイの母親が笑いながら言った。


「心配なら坊や。君が大きくなったらうちの娘を嫁に貰ってくれるかい?」


 父親はこのやり取りを見て笑いながら冗談を言った。


「もう、お父さん、タウロ君を困らせないの」


 笑顔が多い親子だな、仲が良く、良い関係性が伝わってくる。


 そう言えば、前世の自分の両親はどうしているだろうか?


 せっかく行けた一流大学で原因不明の死に、やはりショックを受けているだろうか……。


 振り返れば自分は迷惑しかかけていなかった事を思うと、目の前の笑顔の多い親子に羨ましさを感じた。


 そんなネイとその両親に挨拶すると、ふとわびしい気持ちになりながら、タウロはお店を後にするのであった。

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