第16話 振り返り

 Fランクの初クエストから、ひたすら薬草採取クエストをタウロは続けた。

 短時間で効率がいいからだ。

 空いた時間で、剣の訓練を受けたり、最近では弓矢の訓練も始めた。

 鍛冶屋のアンガスのところにも顔を出し、鍛冶師の修行の様な事もやりだした。

 薬の調合も、本を見ながら真似事をし始めた。

 これらをタウロが色々始めたのには理由があった。

 それは自分の文字化けスキルの発動条件が特殊過ぎたからだ。


 <魂の死に戻り>で、[前世の記憶]を取得。←蹴られたはずみで生き返った。


 <長い年月の汚れ落とし>で、魔法[浄化]を取得。←2年もの間の自分の汚れをお風呂で洗い流した。普通なら、汚れを2年も溜めないし、そんな状況の人は湯あみできる機会も無い。


 <熟練者から崇拝される本物を知る者>で、[真眼]を取得。←長年の知識と知恵、カリスマ性を持つ人じゃないと普通は無理。


 <食の伝道者>で、[植物の知識]を取得。←前世の知識があったから出来た。


 思い出してみても、どれも特殊過ぎて、一朝一夕で普通に生活していては達成出来る取得条件ではない。


 なので、どこで条件をクリアできるかわからないので、色々と始めたのだ。

 とにかく、何でもコツコツと積み重ねて少しでも何かの能力の取得条件クリアに近づけたい。

 それに元々、コツコツやる事を苦にしない性格だ。

 前世でも異世界転移する為に青春も捧げたくらいだ。

 結果、転生だったが……。

 タウロは努力を惜しまなかった。




 そんなこんなで、色々始めて1年半がたった。


 タウロ10歳。


 前世の記憶を得てから2年が経過していた。

 冒険者ランクはF+。

 その間に、新たな能力を取得する事はなかった……。


「うーん……。この1年半、本当に何も覚えなかったなぁ……」


 冒険者ギルドの運営するお店の新メニューも考え、それがまた、盛況だったし、アンガスに刀という新たな武器の作り方も教えた。

 色んな武器の訓練も行ってきた。

 つい先日は、やっと一角うさぎの討伐もして初魔物狩りも達成した。


「神様が言ってたけど、本当に甘くないなぁ」


 とタウロはぼやいた。


 がしかし、収穫もあった。


 色々試した結果、タウロは何でも覚えるのが早く器用なようだった。

 それはそれで前世なら普通にそういう人いるよ、という感じなのだが、この異世界ではちょっと事情が異なる。

 それは、スキルの存在だ。

 持ってないスキルの能力は大抵、才能無しで終わる為、器用にこなすには無理があった。

 だが、タウロはそこそこやれてしまうのだ。

 まだ、わずか2年だから、極めるまでやってみないとわからないが、もしかしたら自分の文字化けスキルの秘密はその辺にあるのかもしれないと思うタウロだった。




 タウロはいつもの日課で薬草採取クエストの為に、いつもと違う街の北東の森の奥に来ていた。

 同じ森ばかりいくと薬草を取り尽してしまうからだ。

 タウロは、街の周辺の森を熟知していて、ローテーションを組んでいくつもの場所を日ごとに回っていたのだが、この日は違う場所だった。


 どこの森でもやはり、奥に入ると貴重な薬草も多い。

 普段通り、手早く薬草を採取してると、これもまた、いつもの様に魔物の気配を感じた。

 森の奥は、奥に行けば行くほど遭遇率が高いのだ。

 タウロが出会うのはほとんどゴブリンだが場所によってはオークなどにも遭遇する事がある。

 今日も相手はゴブリンの様だ。

 あちらはまだ気づいていない。

 いつもの様に気配を殺して逃走を開始した。


 すると、


「特殊スキル【&%$#】の発動条件の1つ<ゴブリンから逃げまくる強者>を確認。[気配察知][気配遮断]を取得しました」


 という懐かしい『世界の声』がした。


「逃げまくるって……。そうだけども…!」


『世界の声』にツッコミを入れつつ、その場から離れるタウロであった。

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