第2話 記憶のパズル

豪華客船のクルージングで結納含むお食事会と思われる私は、とにかく決行したくない為、逃げていた。


でも、一人の男の人と出会い、私の人生が変わろうとしていた。



「すみません……」と、母親。


「いいえ」と、相手の母親。



私達の食事会が始まる。


「奈月も、お食事会楽しみにされていたんですのよ。緊張してて、大変、お待たせさせてしまいました」


「いいえ~」



その時だ。


「失礼致します。こちら、お下げしても宜しいでしょうか?……お料理……お嬢様のお口に合いませんでしたか?」


「いいえ……そういう訳では……」



ドキン

そこにはさっきの男の人がボーイの格好をしていた。



「あら、本当。奈月どうしたの?」

「楽しい時間で幸せ過ぎて喉に通りませんか?」


と、男の人が言った。



「ち、違……幸せとか、そんな理由はありません!」


「奈月?」

「奈月さん?」


「お父様、お母様。それから今伊家の御両親と広司さん。私は……まだ結婚は考えられませんっ!」



「奈月さん……」

「奈月……」


「私達の境遇では結納は当たり前の事かもしれません。確かに結婚は許される年齢です。しかし、私は……今ではなくても宜しいのではないかと…思います。私は今の状況が理解出来ません」



「………………」



「私は……今のままでは広司さんの気持ちに現時点でお応えする事出来ません!だからと言って、今後気持ちが変わるという事も……今の段階では言えないのです……ご勝手な言い分をお許し下さい。失礼致します」



私は席を立ち、頭を下げ席を外した。




「奈月っ!」

「奈月、お待ちなさいっ!」



「私は二人の操り人形じゃありません。結城家の娘ですが、結城 奈月という一人の人間なんです。私の事……もう少し考えてくれませんか?いいえ考えて下さい……勝手な言い分……お許し下さい……お父様、お母様」



「…………」



私は走り去った。



「奈月っ!」



デッキに一人でいると ―――



カチッ

振り返る私。



ドキン

さっきの男の人が煙草に火をつけている姿に胸が小さくノックした。




「こんな所に一人でいたら女に飢えた狼が襲いに来るぞ」

「豪華客船のクルージング内に、そんな人間(ひと)いるわけないでしょう?」

「いないとは正直、断言出来ない!」


「えっ?」


「どれだけの招待客がいると思うんだ?みんなイイ人だって言えるのか?」


「…それは…」


「女が一人、船のデッキにいるんだ。何かあったら遅い。どれだけ大声出しても叫んでも海の上じゃ誰も助けに来ない」


「あなたなら助けてくれそうだけど?」


「…お前…勘違いも良い所だ。俺が良い奴と思うな!」


「えっ?」




グイッ

私の両手を片手で掴み、壁に押し付けると壁にもう片手をついた。



ドキッ

胸が大きく跳ねた。



私のドレスを肩位までグイッとズラされ唇を首筋から鎖骨迄這わせた。



「…や…辞め…」



掴んだ両手を離され、私はへなへなと体を崩していく。



「人を簡単に信用するな!痛い目に遭うし泣き寝入りする事になる。その事を頭に入れておけっ!」



「………………」



「後悔するのは俺じゃない!あんただ!初対面でありながら、キスした俺を信用するなんてどうかしてる!」


「…あなたは…助けてくれたから…」



私の目線に腰をおろす男の人。



「奈月……」


「あなたが私を助けてくれたから私の意見が言えたの!あなたが助けてくれなければ私は……ここにはいない……」



「………………」



「私は…良い所に生まれて育っただけ……それだけなのに許嫁だとか色々決められている。本当の幸せなんて私には一生縁がないしずっと親の言いなりばっかりで縛られているんだから」



スッと頬に触れる。



ドキン



「お前…自分の人生変えたいのか?」

「えっ?」



グイッと私の手を掴み立たせると歩き出す。



「ちょ、ちょっと!何処に連れて行くの?離し……」




ピュー……




ドーーーン……




パラパラ……





夜空に花火が上がった。




「あんたもあの花火みたいに自分の人生を大きく変えれば良い」


「えっ……?」


「一度きりの人生だ。自分の人生なんだ。違う道歩んで駄目だったら、いつもの生活に戻ってみればいい。もしくは、また違う道を考える答えは1つじゃない事位、お嬢様の脳みそでも分かるはずだが?」



「じゃあ、あなたはどうなの?自分の人生を楽しんでるわけ?」

「俺は成り行きで現実に任せて今を生きている」


「えっ?」


「あいにく…俺の記憶の…パズルが繋がっていない……」

「記憶……?パズル……?どういう事?」

「パズルの破片(かけら)が見付からない。……俺は……自分の人生の記憶を戻しに行き当たりばったりで今を至っている……」


「……記憶を戻しに……?もしかして記憶……喪失……?」



「………………」



「名前は分かるの?」


「……飛龍(ひりゅう)……月邑 飛龍(つきむら ひりゅう)だ…」

「…そうなんだ…記憶喪失なのに、どうして私を助けたり出来るの?」

「同じ人間で困っていると思ったから助けた。理由は、それ以外にない」


「あなたの…力に…なれたら良いのに…」




スッと私の両頬を包み込むように彼は触れる。



ドキン

私の胸が小さく跳ねると同時に飛龍は私にキスをした。




「お前のその気持ちだけで十分だ。あんたと俺は身分が違い過ぎる。それに俺達は出逢うべきではなかった。自分の記憶は自分で取り戻す。お前は自分の人生を見付けろ!じゃあな!」



去って行き始める飛龍。




「飛龍……飛龍っ!」



私は背中に抱きつく。



「だったらあなたが私の人生一緒に変えてよっ!私一人じゃ何も出来ないんだからっ!私……まだ16の子供なんだよ!」


「俺に頼るなっ!」


「あなたしかいないのよ!あんな事あって間もないのに戻れるわけないよ」


「お嬢様ってどうしてこうなんだ?我が儘で自分の意見を押し通す。他人の意見なんてどうでもいいみたいに聞こうとしない」


「私は違うっ!」


「だったら戻れっ!俺はあんたの指示通りにしてやっただけだ。自分の意見を言えたなら何も躊躇する事はないはずだ」




その時だ。




「奈月ーー」と、両親。


「奈月さーん」と、広司さん。




どうやら探しに来た様子だ。



「……やだ…どうしよう…?」



私は咄嗟に飛龍の手を掴み逃げ、とある部屋の中に入り身を潜めた。



「奈月ーー」

「奈月さーん」



私達の前を通り過ぎて行く。




「………………」



「どうされるんですか?奈月お嬢様」

「えっ?」

「俺の許可なく勝手に巻き込んで、どういうつもりだ?」

「……ごめん……えっと…」

「今ならまだ間に合う。戻れ!」

「戻らないっ!後戻りはしないっ!私はあなたについて行くのっ!」



「………………」



「お前……正気か?どんな事が起こるか分からないんだぞ!」


「例えあなたに彼女がいようと、そんな事は関係ない!私はあなたの力になりたい。パズルの破片(かけら)を私にも探させて………。そして、そのパズルが見付かって全部揃った時、私も違う人生に終止符(ピリオド)打つ。あなたと歩んだその時間(とき)に」


「じゃあ…もしパズルが揃った時、違う人生に終止符(ピリオド)が打てないなら?」


「えっ?」


「その時は、どうするんだ?」

「そんな事あるわけ…」

「ないとは限らないんじゃないのか?男と女だぞ」



「…………………」



「勝手な事、言わないで!」

「お前は何も考えてなさそうだからな」



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