最強勇者の異世界スマホ冒険記~SNSでヒロインと繋がるほど、俺は強くなる~

あけちともあき

1・ファルート王国

第1話 チュートリアル!

 暇つぶしに、無料のスマホゲームを遊んでいた俺、龍造寺海流りゅうぞうじ・かいる

 若い高校生が、昼間から家にこもってゲームしてるわけだが、無料のゲームはそれだけ金が掛からないんだからありがたい。

 新作ゲームをダウンロードし、開始ボーナスでもらえるポイントで無料ガチャを楽しんでいた。

 そこに挟まれてくる、CM。


「おいおい、マジかよ。なんでCM流れてくるんだ」


 俺はベッドに寝転がりながら毒づいた。

 まあ、無料で遊ぶならCM見てね、ってことだろう。

 CMは、新作RPGのものだった。

 悪魔に支配されつつある、閉ざされた世界。

 追い込まれた人類は滅亡寸前。

 君が勇者となって世界を救おう!


「ふんふん。最近珍しいくらい、直球のRPGだよな。へえ、ガチャでヒロインが出るんだ? 

英雄姫えいゆうき? ヒロイックプリンセスって読むのか。おお、好みのイラストレーター」


 凝ったCM画面に、ちょっと見入ってしまう。

 CMは30秒くらい続いて終わり、最後にアニメ調の女の子の顔が映し出された。

 銀髪で金色の瞳をした、凛々しい女の子。


『これを聞いている誰か! 助けが必要なのです! どうかこの世界、“ガーデン”に救いを!!』


「フルボイスだ!」


 それに彼女の声、俺が好きな声優の明日崎かなめじゃん。

 なんだよ、俺を狙い撃ちしたようなゲームじゃないか。

 ええと、基本無料だろ?

 なら、遊んでみてもいいかな。


 ゲーム名は、まんまヒロイックプリンセス、か。

 よし、ショップでダウンロードっと。


 すぐにダウンロードとインストールが終わり、遊べるようになった。

 すると、起動画面でメーカーの名前が出るでもなく、いきなり真っ黒な画面になる。


「なんだ? 故障か?」


『あなたの名前を教えて下さい』


「えっ、音声入力なのかよ。それでプレイヤー名登録するのか。ええと、俺は海流。カイルだ」


 自分の海流という名前は、気に入っている。

 ちょっとゲームの主人公っぽくて、かっこいいからだ。


『カイル……。あなたはカイルと言うのですね。では、あなたの能力を教えて下さい』


「ええっ!? そういうのがあるのか。しかも聞いてくるってことは、自由に決められる? ちょっと待ってて」


 斬新なゲームだ。

 これ、気軽に始めるんじゃなく、あらかじめかっこいい設定を練ってから遊んだほうが良かったな。


「よし、じゃあ、魔法だ。俺は、スマホで魔法を使う」


 最近見たアニメの主人公、その設定を流用させてもらう。


「それから、スマホでヒロインと仲良くなる……でどうだ?」


『スマホ……。それがあなたの能力なのですね。歓迎します、勇者カイルよ! 

いざ、私達の世界、“ガーデン”へ!』


「おう、それじゃ、スタートっと!」


 ようやく表示されたスタート画面を、俺はタッチした。

 一瞬だけ現れる、『~~~ますか? YES/NO』の文字。

 よく読みもしないで、YESをタッチ。

 そして画面が移り変わる途中で、その文字を見返した。


『異世界に降り立ち、勇者として戦いますか?』


 なんだそりゃ。

 そう思った瞬間、俺の周囲がいきなり変化した。

 見慣れた俺の部屋が、後ろに向かって加速して通り過ぎていく。

 次にやって来たのは真っ白な空間。

 俺は寝転んだ姿勢のまま、白い空間を通り過ぎる。

 そして、次は真っ赤な世界だ。

 いや、赤く染まっているんじゃない。

 燃え上がる炎の中にあるんだ。


「えっ!? なんだ、これ一体なんなんだ!?」


 気がつくと、周囲が暑い。

 暑いなんてものじゃない。もはや熱い。

 そして、寝転んでいたベッドは消え失せ、俺の体は硬い床の上にあった。

 慌てて飛び起きる。


「召喚に……成功しました……! よくぞ、召喚に応じてくれました、勇者カイル……!」


 聞き覚えのある声が、途切れながら耳に届いた。

 そして、鉄のようなにおい。

 血の臭いだ。

 振り返ったら、そこに膝をついた女の子がいた。

 銀色の髪、銀と青の鎧、そして銀色の槍にもたれかかって、肩で息をしている。

 彼女の膝の周りには、赤いものが広がっていた。

 血だ……!


「お、おい! あんた、大丈夫か!?」


 俺は思わず駆け寄っている。


「はい……。お優しいのですね、勇者カイルは……。ですけれど、私に構っている暇などありません……! 

奴を……、黒貴族アスモデウスを止めなくては……!」


 彼女の声は苦しそうだった。

 怪我をして、今もそこから血が流れているのだ。

 俺は状況を理解できない。

 だけれど、一つだけ分かることがあった。

 それは、この苦しそうな彼女の声が、声優の明日崎かなめそっくりだったこと。

 そしてこの声は、俺のテンションを高くしてくれる。


「よく分からないけど、分かった。どうすればいいんだ?」


「カイル、あなたの能力を使って……。スマホを……げほっ」


 彼女が血を吐いた。

 やばい。

 早く彼女を手当しないと。

 だけど、俺にそんな暇なんて無かった。


『突然巨大な魔力が飛び込んできたかと思ったら……。小童こわっぱ、お前は何者だ?』


 地の底から響いてくるような、恐ろしい声が聞こえてきた。

 俺と銀髪の彼女の前に、大きな影が現れる。

 それは、獅子の体の上に、周囲を燃やす炎のような赤い鎧を纏った上半身がくっついた男だ。

 牛と羊を象った肩の鎧が、ギョロリと目玉を動かして俺を睨んだ。


「うおー」


 現実感が無い。

 これは、あれか。

 VRというやつか。

 馬鹿な。

 俺はさっきまで、スマホでゲームをしていたんだぞ。


「おい、状況説明」


 思わず呟いていた。

 すると、スマホが答える。


『チュートリアルを開始します』


 それは銀髪の彼女と同じ、明日崎かなめの声だった。

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