向日葵畑の2人と彼女

水縹❀理緒

向日葵畑の2人と彼女

【向日葵畑の2人】の物語の別視点です。


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これは、私の所へ来たお客さんのお話です。


夏に、私は目を覚ましました。

沢山の人々が、愛を込めて育ててくれたお返しに

美しく咲き誇り、花や種をおすそ分けするのでございます。

前世の記憶があやふやなので、あまり覚えてはおりませんが

決まって、毎日必ずやってくるお客様がおりました。


2つの御家族。

どちらも、我が子を何かから守るかのように

険しい表情をなさっているので

私達は、少し心配でございました。


「あの子、確か前の夏で見かけたわ」

「私も覚えてる。とても不思議な家族だったから」

「首輪でも付けられてるみたいね。とても可愛そう。笑ってくれたら嬉しいのだけど」


1人は、幸せそうに私達の中を駆け巡り、

もう1人は、無表情で私達をかきわけておりました。


そんな時、私の目の前で、彼女達は出会いました。


「……だぁれ?」


まるで、有り得ない、とでも言うかのように。

彼女達の顔がそう語っていたのでございます。


「私、ノアっていうの。あなたは?何歳?」

「……ユキ。何歳かは…覚えてない」


頑張れ、頑張れと。

何故か花弁を揺らしながら応援していました。

我が子を見ているかのように思ってしまったのです。

暫くして、ぎこちない言葉を交わし、


「じゃあ、また会えたら会いましょう!この動く向日葵さんの前で!」

「……また、ね」


そんな約束を、ぎゅっと握りしめながら、2人は家族の元へ帰っていきました。



次の日も、次の日も

彼女達は私を目印に、こっそり会いました。


「今日はね、絵本を持ってきたの。一緒に読みましょう」

「……私、文字が読めないの。ごめんなさい」

「大丈夫よ、私が読むから、ゆっくり覚えていきましょ!」


ノアは、沢山の絵本や遊び、食べ物を、

ユキは、自分の家の事を話しました。


彼女達の家には生まれた子が呪いを受け継ぐという

魔女によるイタズラがございました。

ノアは、それを親から聞いたと、ユキに伝えました。

子供を産むまで、これは続くと。

ですが、彼女達は、自身にかかっている呪いの内容を、全く知らないのです。


あんまりではありませんか。

親は、呪いから逃げる為に子を産むなど。


出来るなら、代わってやりたい。

2人の話を聞く度に、そう強く思いました。

ですが、私は花。

歩く事も話す事さえ出来ません。


私に出来る事は、彼女達を家族の目から隠す事。

それぐらいしかございません。


私達の影にそっと隠れながら、

クスクスと笑い合う。

その2人のなんと楽しそうな事か。

周りの向日葵も、いつしか彼女達を

応援しておりました。


2人の成長を、とても感じております。

ノアのおかげで、ユキは沢山の物事を覚えたのです。

笑う事も、増えました。


嬉しい。


あぁ、きっとこれは、あの家族が永遠に分からない喜びなのだろうと思っております。

そして、彼女達も知りえない、予想の出来る残酷な未来がそこまでやって来ているのだと。

私は花弁を通して感じておりました。


笑顔で家族の元へ帰ってくる我が子を見て、

ノアの家族はとても満足気に。

ユキの家族は、その場で頬を引っぱたきました。


何度も何度も、引っぱたきました。

ユキが泣くまで、続きました。



きっと、その呪いは。

彼女達は、真逆の呪いに縛られているのだと

確信したくもない事実に、私達向日葵は

為す術も当然無く、

項垂れるしかございませんでした。


そして、夏が終わりかける頃。

始まりには終わりがあるように

その時はやって来てしまいました。

私達は、太陽なんかそっちのけで、

彼女達を見つめておりました。


「…ノア。私、もう二度とこの畑には来れないの。親が、二度と外に行かせないって。運動なら部屋でもできるって」


そう、ユキは言うのでございます。


「そんな……嫌だよ、私。ユキにもう二度と会えないなんて、そんなの嫌」


ノアは、涙をぐっと堪えながら、必死にユキにしがみついておりました。


「……嬉しい。ありがとう、ノア。私、幸せだよ」


その言葉を伝えた時、

ユキはゆるりと、眠りに落ちたのでございます。

それは儚く、花のようで。


「……ユキ?ユキ!ユキ!」


ノアはユキの顔を手で包み込み、呼びかけます。

ですがそこには、安らかな顔があるばかりで

目が開く事はございませんでした。


「嫌だ…嫌だよ………私、また1人になっちゃった」


静かに、静かに、

ノアは静かに泣きました。

気づかれぬように、しくしくと。


そして彼女も、また。

ゆるりと眠りに落ちていったのでございます。



私の寿命は、あと半月もしないうちに尽きるでしょう。

短い間ではあるけれど、我が子のように思っておりました。

ですから、最期くらい

彼女達を守りたいではないですか。


そっと隠すように、家族なんかに見つかるまいと

私達は、彼女達の上に覆いかぶさりました。


きっと、私の記憶は、薄れながらも次の子に受け継がれるでしょう。


大丈夫。

だからまた、ここにおいで。


可愛い娘たち。

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向日葵畑の2人と彼女 水縹❀理緒 @riorayuuuuuru071

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