色々と変わったり

 もう春も終わり、夏の日差しをちらほらと感じる今日この頃。

 お久しぶりです。俺、アレックス=レンブランド (15歳)は元気に冒険者やってます。

 今日は快晴。見事な遠出日和ですが、俺たちは今まさに依頼クエストの真っ最中……なのです。





「アレクッ! そっちに2匹行ったわよっ! ボゥッとしないっ!」


「……そういうマリーシェんとこにも、新手が寄って来てんで?」


 俺にきっつい檄を飛ばして来たのは、戦士職のマリーシェ=オルトランゼ。

 彼女はクエスト中何故か、俺にいつも厳しい態度を取るんだよなぁ。

 ……まぁ、それが俺を思っての事なのか面倒見が良いのかは不明だが。

 でも、俺は実年齢30歳の元上級冒険者……“勇者”だったんだぜ? 

 その俺に、今更こんな低レベルでの指示なんていらないんだけどなぁ。

 もっとも、今の俺は若干15歳の駆け出しなんだが。

 そして、そんなマリーシェにツッコミを入れてくれたのが魔法使いのサリシュ=ノスタルジアだ。

 基本的に口数の少ないどこか引っ込み思案の彼女だけど、いざと言う時には確りと自分の責務を熟してくれる頼れる存在だ。


「分かってるってぇの!」


 俺はマリーシェにそう啖呵を切って、迫って来た魔物「狼人間ワーウルフ」を2匹とも切り伏せてやったんだ。

 俺だってあれから……2カ月前と比べればレベルも上がってるからな。

 ワーウルフの2匹くらいなら、何とか倒せるってもんだ。


「油断は禁物! みな、気を緩めるな!」


 俺たちのやり取りを見ていたカミーラが、そんな緩んだ気を引き締めに掛かる。

 普段は穏やかで丁寧な物言いのカミーラだけど、事が戦闘になったら彼女程頼れる存在もいないだろうな。

 カミーラ=真宮寺。彼女は東国、倭の国から来た女性剣士だ。

 未だにレベルは低いけれど、その太刀筋は見事と言っても良いだろうな。


 あれから幾つかのクエストを熟し、俺たちはレベルが上がった事を契機に、保留となっていた冒険者ランクも銀級シルバーから金級ゴールドへと引き上げて貰ったんだ。

 俺はLv7からLv9に。

 マリーシェはLv9からLv11に。サリシュはLv10からLv12。

 そしてカミーラは最も高く、Lv11からLv14になっていた。

 これくらいなら、ゴールドランクのクエストでもなんとか熟す事が出来るからな。

 本当だったら、2カ月そこそこでここまでのレベルアップは難しいだろう。

 駆け出しの冒険者だけだったら、それこそ1つレベルを上げるだけでかなりの時間を要する筈だ。

 でもここで、俺の前世の経験が役に立ったんだ。……いや実際には、同行者だったシラヌスのやり方が……かな?

 あいつは面白みのない奴だったけど、効率的と言う点ではとにかく優秀だったからなぁ。

 如何に無駄なく、楽にクエストをクリアしより多くの報酬を得るか? この事に特化していたと言っても過言じゃない。

 そこで俺は、そんな奴のやり方から嫌らしい部分だけを取り除いた方法を採用し実践して来たんだ。

 そのお陰で、順調にレベルを上げる事が出来ていた。

 俺を含めて、この4人がこれまで一緒にパーティを組んできたメンバーな訳だが。


「そっれにしても、ほんっとウジャウジャ出てくるのなっ!」


 体格に見合わない巨大な斧を振り回しながら、息を切らせてワーウルフを攻撃している少年。

 そして。


「……うるさい」


 誰に言っているのか分からない程小さい声で、巧みに槍を振るいながらボソリと独り言ちたこの少女。

 実は、この2人が新たに俺たちのパーティに加わっていたんだ。


 斧を好んで戦うこの少年は、セリル=アステンバード。

 俺と同じ年齢の15歳なんだが、レベルは6と俺よりやや低い。

 これまでソロでやって来たっていうんだから、それも仕方ないだろうが。

 減らず口は多いし、粗暴なのはその手にした武器が現わしているかな? 

 考え無しな行動を取る処は、トラブルメーカーの素質十分……なんだが。

 それなのにこいつ、とにかく……顔が良いんだ!

 サラッとした金髪を短くまとめ上げて、眉目秀麗なその容姿は間違いなく女性受けするものだ。

 たぶん、ジッとしていれば女性の方から寄って来るんじゃあないか?

 しかし、セリルとパーティを共にした者達はみんな彼の元から去っていくってんだから……損してるよなぁ。

 しかも、それを本人が気付いていないってんだから救いようがない。

 それに、がセリルにはあるんだが……。


 もう一人の少女は、槍を好む戦士バーベライト=ペプチカート。

 愛称はバーバラって呼ばれている。14歳でレベルは7だ。

 長く綺麗な薄い青色の髪を靡かせて、踊る様に槍を使ってワーウルフを倒してゆく。

 恐らくは、幼少から槍術を嗜んで来たんだろう。

 その姿は整った顔立ちも相まって美少女に成り得る要素があるっていうのに……彼女の沈んだ眼がそれを台無しにしていたんだ。

 本来だったら綺麗な緑色の瞳も、彼女の眼と表情からどこかくすんだ色に見えちまう。

 残念と言えば残念なんだが、それよりももっと惜しいのは……。


 ―――14歳とは思えない程、彼女はなんともスタイルが良いんだ!


 なんとも強調的な胸! 細くくびれた腰! スラリと延びた手足! 妖艶な尻!

 ハッキリ言って、とても14歳とは思えない程の肉付きをしている!

 バーバラ自身は気にしていないんだろうが、ひそかにサリシュとカミーラは彼女をライバル視しているようだった。……女性として。

 でもそんな容姿も、当のバーバラにしてみればっていうでしかないようで、他人の視線が気になりコミュニケーションを図るのに恐怖心を感じているようだった。

 だから故郷では家に引きこもりがちで、それを何とかする為に一念発起して冒険者になり実家を出たらしいんだが……極端だな、おい。

 しかも、そんなバーバラが身に付けている装備ったらどうなんでしょ?

 アマゾネス族だったグローイヤほど露出が高い訳ではないけれど、それでも体の各部が強調された鎧を身に纏っている。

 そういう恰好をしていれば、そりゃあ異性から邪な目で見られるだろうな。

 とにかくそんな理由から、やっぱり彼女もソロで活動していたらしい。

 俺たちは、成り行きとは言えこの2人を新たに迎えた6人パーティになっていたんだ。





 そして俺たちは今、金級ゴールドクラス依頼クエスト「亜人種盗賊団から行商隊キャラバンを護衛せよ」を受けて実行していた。

 上手く行けば、盗賊団に襲われる事無くジャスティアの街の北にある温泉地「アルサーニの街」に辿り着く事が出来たんだが……そりゃあ、そう簡単にはいかないよな。

 予想通り荷馬車隊はワーウルフの盗賊団に奇襲を受け、俺たちは今防衛戦を強いられている最中だった。


「アレクッ! 数が多過ぎるっ! どうする!?」


 マリーシェが、切羽詰まった様な声で俺にそう問うて来た。

 敵が少なければハッキリ言って今の俺たちの敵じゃあないんだが、何せ数が多い。正しく、多勢に無勢だな。


「……あ。最後の護衛がやられはった……」


 そしてサリシュが言う様に、どうやら行商隊に所属していた護衛の者もやられちまったみたいだ。

 これでこの行商隊を護る戦力は、俺たちだけって事になる。


「……アレク、如何する? このままでは、我々も討ち死にしてしまうぞ?」


 周囲の敵を警戒しながら、カミーラが俺の元まで来て指示を確認に来たんだ。

 まったく、なんだかいつの間にか俺はこのパーティの頭脳ブレーンになっちまってるんだが。


「どうする? どうするよ? なぁ、どうする!?」


 やかましくセリルが質問を繰り返して来るんだが、その顔はどこか楽しそうだ。

 まったく、この状況が理解出来てるのかねぇ、こいつは。


「……うるさい……黙れ。……死にたいなら……一人で突っ込めば良い」


 そんなセリルに、沈んだ眼のバーバラが辛辣なツッコミを入れる。

 いや、仲間なんだから仲良くやろうよ?


「んもぅ、バーバラちゃんてば、つれないんだからぁ」


 そんなバーバラの台詞も、当のセリルにはどこ吹く風だな。

 とはいえ、確かにこの状況は楽観出来るもんじゃあない。


「このままじゃあ、退なんて無理よっ!」


 マリーシェの緊張感溢れる声が、事態の深刻さを物語ってるんだが。


「……撃退?」


 そんな彼女に、俺は冷めた声でそう答えてやったんだ。

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