嵌められ勇者のRedo Life Ⅱ
綾部 響
1.プロローグ
それから
魔王の間で全滅し、本当だったら「記録」の奇跡でやり直せる筈が仲間の……いや、同行者たちの裏切りにより、俺だけ15年前に戻されてから2カ月経った。
30歳の熟練凄腕冒険者だった俺は15歳の駆け出しになって、再び人生を歩み直さなきゃならなくなっちまったんだ。
本当だったら、そんな事を受け入れるなんて出来ないかもしれない。
なんせ、それまでに得てきた筋力や体力、技術や魔法なんかが全てパァになるんだからな。
同じ事を15年掛けてやり直せって言われて、誰が喜んでやるってんだよ?
しかも、15年掛けても良くて元通りなんだぜ? こんなバカな話なんかあるかってんだ。
それでも、俺には選択肢なんか無かった。
何せ、それを拒否してしまっては、俺は本当に死ぬしかないんだからな。
生きるか死ぬかの二択なんだから、どちらを選ぶかなんて決まってるだろ?
って事で、俺は15歳から人生をやり直す羽目になったんだが。
まぁ、それでも悪い事ばかりじゃあないって気付いたんだ。
まず1つは、知識を持ってやり直せるって事だ。これは、かなりデカいな。
普通は痛い目を見て、失敗して得て行く経験を俺はもう持ってるんだ。
これなら、かなり安全に且つ効率的に人生を進める事が出来る……筈だ。
危険を回避するにしても、ちゃんとリスクとリターンを計算して挑めるんだからな。
きっと前回よりも、より「冒険」ってやつに取り組めると思う。
そして2つめ。
これも結構有難いんだが、俺は女神フィーナ……フェスティーナ=マテリアルクローン=プロトタイプMk8……だったか?
とにかく、その女神様にある“技能”を前回の冒険から持ち越して貰ったんだ。
それは……。
―――前回の冒険で使用していた「魔法袋」……だ。
この無限にアイテムを収納出来る不思議な空間「魔法袋」を、この新しい人生で引き継いで使えるんだ。
冷静に考えれば、これはかなり有難い話だった。
何せこの中には冒険の序盤から中盤……いや、終盤まで使えそうなアイテムが、それこそ山ほど入ってるんだからな。
もっとも、残念ながらそれらのアイテムをもってしても終盤……魔王の城に突入する時には、どれも使えないアイテムとなっている訳だが。
それでも、そんな普通に買えばどれだけ金額が張るのか知れたもんじゃあないっていうアイテムや武具が、この魔法袋にはわんさか入っている。
まぁ、売るのも億劫でとりあえず突っ込んでいた結果なんだが、それが今回は功を奏したってこったな。
これで俺は、資金の事を考える必要もなく冒険出来るって寸法だった。
とにかく冒険者ってのは、冒険を続けて行く上でお金が掛かる。
前回の冒険も、それで随分と苦労したもんだ。
これらを惜しみなく使い、俺は楽に冒険者生活を進めるつもり……だったんだけどなぁ。
ここで一つ、問題が起こりやがった。
女神フィーナは、憐れんだ俺にスキルを一つ付けてくれたんだ。
本当は、こんな15歳で駆け出しの冒険者がスキルなんて持ってないだろう。
それは、「ファクルタース」っていう、仲間を集める時だけに最適なスキル……だったんだが。
何を勘違いしたのか、女神フィーナは俺に「ファタリテート」ってスキルを授けやがったんだ。
これは、使用した相手の「運命」やら「宿命」ってやつを覗き見る事が出来るっていう、何とも重たいスキルだった。
そしてスキル付与を間違えたフィーナは、とにかく俺にもう一度死ねって言いやがるんだ。
それでもこんな嫌なスキルを持ち続けるなんて考えたら、早々に再再開する方が良いよな?
どうにも釈然としなかったけど、俺も彼女の言に賛同して、またまた人生の幕を引こうって考えていたんだ。
……なんて人生なんだよ、まったく。
でも縁は異なもので、ふらりと立ち寄った懐かしの「酒舗ギルガメシュ」で、俺は2人の少女と出会ったんだ。
それが戦士のマリーシェと魔法使いのサリシュだった。
食事を同席した際に俺は、うっかりとスキル「ファタリテート」を発動し彼女たちの「運命」を見ちまった。
放って置いたら人攫い集団に拉致られてしまう彼女たちを無視出来ず、俺は結局この2人を助けたんだ。
そして、それが縁で行動を共にする事になった。
しかも、その後更に同行者が増える事態となる。
3人目の人物は、東方の剣士カミーラと名乗った。
神秘的な風情の彼女は、どうやら同行者を探しているようだった。
協力を求められて、俺たちは人攫いのアジトに乗り込んだんだ。
結果としては残念な事になったんだけど、その縁で俺たち4人はパーティを組む事になったんだ。
しかし、一度ズレ出した運命やら宿命ってやつは、それこそ加速度的に変化を齎してゆくようだ。
クエストに勤しむ俺たちの前に、謎の種族「魔神族」が出現したんだ。
前世で世界のあちこちを旅した俺だけど、この「魔神族」と言う存在を知ったのはこの時が初めてだったなぁ。
そしてなんとこの魔神族は、パーティメンバーとなったカミーラを追って東の国から来たと言う。
本来なら今の俺たちでは太刀打ち出来ない様な強さを持つ魔神族だったが、俺の持つ強力なアイテムと、何よりも全員の力を合わせた“協力攻撃”によって、俺たちは何とか撃退する事に成功したんだ。
結局、未だにカミーラからは魔神族に関して詳しい話は聞けていない。
それはきっと、まだまだ俺たちの関係が浅いって言うのもあるけど……とにかく弱いからだろうな。
こんな低レベルの俺たちじゃあ、正面から魔神族と戦っても返り討ちに遭うだけだ。
カミーラはきっと、そんな事に俺たちを巻き込みたくないんだろう。
それに、マリーシェやサリシュの考えもある。
カミーラの話を聞いて、彼女たちがどんな決断を下すのかはまだ不明だ。
冷静な判断を下せば、もしかすればカミーラと別れる事になるかも知れない。
だから、今はまだ……知らなくて良い。
これからも魔神族の影に怯える事になるだろうが、それでもまだ知る必要な無いだろうな。
だから俺たちは、その事を一端棚上げにしてパーティを組み
そして俺にも、まだまだ彼女たちに話していない秘密がある。
俺が実は中身が30歳の元熟練高位冒険者だったって事も秘密にしてるんだが、何よりももっと秘密なのは、俺がスキルで他人の運命や宿命を見れるって事だ。
なんせ、誰にでも秘密にしておきたい事なんて1つや2つはある。
俺のスキルは、それを暴きかねないんだからな。
彼女達にも秘密があり、俺自身も秘密を持っている。
それぞれに隠している秘め事を共有出来る様になったその時、俺たちは本当の「パーティ」になれる……なんて、勝手に考えてるんだがな。
あとはあれだな。女神フィーナの言っていた「
認めるだのなんだの、いつでも呼んでとか言っておきながら、あれ以来一向に現れやしない。
今や俺自身にも謎な部分が出来ちまって、今の人生は分からない事だらけだ。
……でも、それが良い。
どうせ15年の歳月をやり直さなきゃならないんなら、知っている生をもう一度辿るより、未知の人生を歩む方が楽しいからな。
もっとも……なんだかかなり難易度は高くなってる様なんだが……な。
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