愛を力に変えながら

春嵐

01

「女性が女性を好きになると、こころがこわれるわよ」


 そう、母に言われた。

 理由は、教えてくれなかった。

 でも、母は、男同士が仲良くする22時台のドラマをよく見ているのに。


 そんなことを思いながら、学校に行っていて。


 好きなひとができた。


 同性だった。


 母は、最初から自分のことを、分かっていたのかもしれない。わたしは、同性が好きなのか。


「え。おとうさんにそれく?」


 父。困惑している。


「うん。おかあさんが、こころをこわすわよって。言ってて」


「へえ。こころがね」


 父。なにか、思案する表情。知っている。父がこの表情をするときは、何も考えていない。単純に、この表情がかっこいいと思ってやっているだけ。毎朝鏡のまえで、思案する表情を練習して、一人きめ顔祭りをやっている。


「そうだなあ」


 思案する表情のまま。父が言う。


「とりあえず、こころがこわれるまでアタックしてみたら?」


「え」


 意外と当たって砕けろ系のアドバイス。


「いいじゃん。いまはそういうご時世だし」


「ご時世?」


「そう。例えば、障碍を持つひとは、『世の中に受け入れられる障碍』と『世の中に受け入れられない障碍』の二つに分かれる。受け入れられるほうは囃し立てられて、本人の意思なく勝手におだてられる」


「もう片方はどうなるの」


「めっちゃ排斥される」


「ひどい」


「そういう時代なんだ。覚えておくといいよ。もし自分が他の人とは違うと感じたら、『受け入れられる側』なのか『受け入れられない側』なのかを常に考えなさい」


「むずかしい」


「そう。むずかしい。普通が一番ってことになってしまいそうだしね」


 父。また、思案する表情。


 話しているのがばからしいので、やめた。


 でも。


 こころがこわれるまでアタックしてみようとは、思った。

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