2 夏祭り
そこからの夏休みは、俺の人生の中で一位、二位を争う程に楽しい時間だったと思う。
自分の中で答えを出した今、思考が純粋にメリーに幸せでいてもらうという事に一本化したからかもしれない。
そんな思いで彼女と過ごして、笑ってもらえれば嬉しいし楽しかった。
メリーは基本的に良く笑うから。
だからずっと俺は幸せな気分に浸れたんだ。
そんな時間が永遠に続いてくれればいいのにと思う。
だけどそれは無くて。
それだけは絶対になくて。
どう転ぼうと八月末には全部終わる。
そしてどう転ばせるかは決めてある。
……そうする為に何ができるのか。何をするべきなのか。
メリーが躊躇わず、無事に俺を殺すにはどうすればいいのか。
そんな方法を、俺は夏休みに入ってからずっと考えていた。
「よし、じゃあ行くか」
「うん、そだね」
それを考えながら迎えたこの日。
メリーと約束していた、花火大会当日である。
「うわ、凄いね。お店が一杯並んでる」
「だろ? 花火まで結構時間あるし、ゆっくり回ろうぜ」
花火大会の会場となる公園にはかなりの数の出店が並んでいる。
流石は地域最大級を謳っているだけある。
そしてこの出店の数に比例すうように、花火も毎年気合が入っているんだ。
……晴れてくれてよかった。
メリーも楽しみにしていた訳だし、また来年とかは無いからな。
「何か食べたい物とかある?」
「えーっと、かき氷に焼きそばににたこ焼きに……あ、あそこで売ってるのインスタ映えしそう」
「え、お前インスタとかやってるの?」
「うん。やってるよ」
「意外だ……」
……いや、以外でも無いか。電話使って色々やる都市伝説な訳だし……。
そんな訳でメリーと一緒に出店を回っていく。
そしてまず訪れたのはたこ焼きを売っていた屋台だ。
「いらっしゃ……って将吾じゃないか」
「明人……お前こんな所で何してんの?」
店頭でたこ焼きを作っていたのは明人だった。
「見ての通り、たこ焼きを作ってる」
「いや、そうだけど……何故に?」
「最近いくつかバイトを掛け持ちしていてな。その内の一つが出店する流れで……つまりそういう事だ」
「納得」
……掛け持ちしている云々の理由については踏み込まなかった。
俺が踏み込んでいい話では無いだろう。
「あ、なんだか久しぶりだね」
「久しぶりだな将吾の彼女さん」
どうやらこの二人はこれまで殆ど接触してこなかったらしい。
多分明人が意識的に避けていたのではないかと思う。
メリーと一緒に生活をし始めて約半日でおかしくなってしまっていた俺を見て、メリーの事を警戒していたのではないかと思う。
だからこそ柿本さんの元に辿り着くに至ったのだろう。
「折角だ。少しサービスしておこう」
「やった。ありがとう」
たこ焼きを一個おまけして入れてくれた明人の神対応にメリーは笑みを浮かべる。
そんなメリーを見ていると、俺も表情がほころぶんだ。
「楽しそうだな」
「ああ、楽しいよ。すっげえ楽しい」
明人に配慮すればそんな事は言うべきではないのかもしれない。
だけど心の底からそんな言葉が湧き上がってきたのだから。
「……そうか」
……この位は許してほしいって思うよ。
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