2 本日の予定

「ご馳走様でした!」


 メリーは満足そうにそう言って両手を合わせる。

 簡素な朝食ではあったが彼女は満足してくれたようで、機嫌の良さが伝わってくる。


「いやー朝から大満足だよ」


「そりゃどうも」


 そんな様子を見て、良かったと安堵しながら今日の予定を脳内で纏める。

 今日はショッピングモールでメリーの服を始めとして、生活に必要な物を買い揃える。

 昼食もそこで取ってくれば良いだろう。

 それが終われば、ひとまず俺達の予定は終わり。

 そこからは俺の予定を消化しなければならない。


「よし! じゃあ此処からは私の番だ。皿洗いやってきまーす」


「洗剤の場所とか分かるか?」


「さっきキッチン行った時見たから大丈夫」


 そう言ってメリーは皿を重ねてキッチンへ。

 そんな彼女を見送った後、テーブルに置かれた旧式のスマートフォンに視線を落とす。

 メリーが持っていたスマートフォン。

 誰かが使わなくなって処分したジャンク品と言われれば納得できるような少し前の旧式。

 当然の事ながら都市伝説として現れたメリーが持つスマホに、通信の契約などされている筈が無いのだが、そこは電話を掛ける事を主とする都市伝説だ。

 不思議な力で勝手に電波が送受信していて、普通に使える。

 そういうスマホをメリーが所持しているからこそ、予定ができた。


『そうだ、後で将吾の番号教えてよ』


 食事中、メリーにそんな事を聞かれた。

 不意に掛けられたそんな要望に二つ返事で答えそうになったが、その時の俺は何とか踏み止まる事ができた。

 メリーに番号を教える。

 あの電話帳に載っている番号を教える。

 それはつまり自白しているに程近い行為のように思えて。

 思惑は違えど彼女にギリギリまで犯人だと悟られないようにしようと考えている以上、そんな事は安易にできなくて。


『あー悪い。今ちょっとスマホ調子悪くてな。明日買い替える予定なんだよ。それまで待ってくれねえか?』


 だからそんな嘘を付いた。

 嘘を付いて、対策を構築した。

 スマホの二台持ち。

 多分それが唯一の解決策のように思える。

 当然、それ相応の金銭的な痛みはある。

 両親から預かっている生活費から理外の出費が行われる訳だ。

 痛くない訳がない。

 ……だけど背に腹は代えられないだろう。


 メリーはバイトを探すと言っていたけど……俺も探すか。

 ……しかしメリーはどんなバイトをやるつもりなのだろうか?

 というより何ができるのだろうか?


 昨日からメリーと接してきた中で分かった事だが、彼女は今の現代日本で生きていくだけの最低限度の知識は持ち合わせている。

 そして過去と反比例するように性格は明るい。

 明るくて、いい奴だ。

 だとすれば多分きっと、何でもできる筈だ。

 いいバイト先が見つかってくれればいいなと思う。

 自分の事は棚に上げて。

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