「噓つき」
今日もミナミとアニメを見る、夏目友人帳の二期である。
「なあ」
「はい?なんでしょう」
「前から気になってたんだけどさ、なんでアニメを見始めようと思ったの?」
本ばっかり読んでいたのでてっきり興味が無いものかと思っていた。
「……さあ、なんででしょう」
「おい」
「別にいいじゃないですか、気になって少し見ようと思ったら面白かったから見続けてるだけです」
「ふーん」
腑に落ちないがお前がそう言うならそうなんだろう、お前ん中ではな。
「でも、」
「?」
「貴方が皆さんと楽しく漫画やアニメの話をしていたのが、少し羨ましく思ったのもあります」
そのまま顔を伏せてしまった。
「…………」
「スマブラを流行らせる時だって、お料理で勝負とふっかけられた時だって貴方は私を引っ張り回しました。まあ後者は私が承諾しましたけど」
続ける。
「それでも、私はそれなりに楽しかったんです。今までお友達と言える人はいませんでしたし、あんな遊びだってした事がありません、私の娯楽と言ったら小説か、後は家の人が見る映画を覗き見するくらいでした」
「だから、貴方が楽しそうに甜瓜姉妹とつるみ出した時思いました。せめて貴方と同じ楽しみを共有したい、そうでなくてもあの時の時希さんのように一枚噛んで見たいと思ったんです」
「…………」
「仲間はずれなんて嫌だった、……貴方と同じ楽しみを知りたかった、ただそれだけの事ですよ。子供じみたわがままです」
そう言ってまたアニメを見始めた、これで話は終わりだと言うように。こちらの方を一度も見ないまま。
「……そっか」
聞こえるのはアニメの音のみ、だがその内容は全く頭に入ってこなかった。ミナミの返答を聞いても出てくるはまた違う疑問。軽く口に出した、出してしまった。重い空気を破るつもりで。
「じゃあ時々俺を名前で呼ぶのも、口についたソース拭うのも、コミケで自然に手を繋ぎだしたのも独占欲みたいなもんか?」
ははは、と茶化しながら言う。
「そうですよ」
そう返したミナミの顔は、ほのかに赤い。
―――ああこれは、聞くべきではなかった。なんとしてでもこのセリフは言う前に、今一度考えるべきだった。
『クロはよく考えず喋ってそのくせ覚えてないってのをよく知ったよ、いや思い出したよ』
何故か思い出されるあの時のトキの言葉。
「っ、」
顔を寄せ続けるミナミ。
「ねえ、くろうさん」
「ハイ、ナンデショウ」
「これからはいつも、こうやって名前で呼んでいいですか?」
「割と前から呼ばれてた気がするk」
「いいですか?」
「イイデスヨ」
「やったあ」
いい笑顔です。じゃなくて、
「なんで急に?」
「だって、この方が許嫁っぽいじゃないですか」
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「ねえもしかして俺に惚れてるの?」
「さあ、それはわかりません」
「嘘つけ、君にむちゅーうーうーうーって感じじゃんか」
「ほんとにまだわからないですよ、ただ」
「ただ?」
「このままのんびり変わらず毎日を過ごしても、楽しそうだなーって思っただけです」
ふい、と顔を背けてしまった。その赤いままの顔を。
「そ、そうすか」
……すこし、思い違いをしていたのかもしれない。出会ったばかりの時は本ばかり読んでいて俺の無茶ぶりにも興味なし、渋々でといった感じだった、スマブラの時だって強引に相手させてしまったし、まあそれは偶然ハマってくれたからいいもののやはり無理矢理だったのは変わらないだろう。
でも、そのミナミが寂しかったと言ってくれた。のけ者は嫌だと、自分も一枚噛みたいと、俺と同じことをしてみたいと自分から言ってきた。正直かなり嬉しい。ミナミとしばらく暮らして大体の性格は解ったつもりでいたが、とんだ思い違いだった事を知る。
彼女は、無愛想で、無遠慮で、いつも白々しく俺をいなして。だけど朝は優しく起こしてくれて、朝も昼も夜も美味しいご飯を作ってくれる。しまいには自分も俺と同じ楽しみを知りたいと言ってくる、のけ者は嫌だと言ってくる普通の女の子だったのだ。そんな女の子が、独占欲だと。俺のことを―――
『―――このままのんびり変わらず毎日を過ごしても、楽しそうだなーって思っただけです』
「…………」
「おや、どうしたんですかくろうさん。顔が赤いですよ?」
「うっせ、お前もだぞ」
「そんなことありませんよ」
「噓つきめ」
「じゃあくろうさんも噓つきです」
「……あっそ」
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