大丈夫だ、問題ない

「さあ、ここが学院長室です…そんなあがってて大丈夫ですか?」


 内心あがりまくりだがバレてはいないようだ。問題ない、ミナミの言うことが真実ならここはまだマシだ。足はすくみ手は震えているがこの後全お嬢様のさらし者になると考えればどうという事は無い、はずだ。証拠を示すべくこう返せとDNAに刻まれたようなツーに対するカーを繰り出した。


「大丈夫だ、問題ない」

「声震えてますけど…時間です、仕方ないですね行きましょう」


 ミナミがクソでかい木の彫刻があしらわれた扉をノックする。クッパとか出てきそう。


 一言、二言なんかお嬢様っぽい挨拶をしたあと「入りなさい」と言う声が中から聞こえてきた。


 中に入るとこれから起きるであろうお嬢様との生活と言う一大イベントのテープを切るにはまったく相応しくない無個性な老人が立っていた。着ている服は上等だが威厳も風格も皆無である、パチ屋で朝から海物語やっててもなんの違和感もない、かっくへーん!だ。


 部屋もこれまた意外と地味、かなり広いが歴代の院長の写真が上に飾ってあったりよく分からん賞状が飾られていたりと普通である。なんだよ『世界公認サンタクロース認定書』って…どうせパチモンに決まってる。


 扉の近くにはここに来る途中にも何度かすれ違ったメイドさん達が4人ほど待機していた。


 みんな美人だがここまで来る途中のメイドさんはみんなロングスカートに長袖という露出度皆無の姿だったのでちょっとがっか「ようこそ我が学院へ」りしている。ロングスカートには大いに賛成だが、二の腕が見えないとモチベも下がると言うものだ。


「なぜ君をこの女子校へ呼んだかと言うと」どうせ今回も同じだろうと適当にせめて誰が1番胸があるか確認しようとした時遠からんものは二の腕に聞け近くば寄って目にも見よと言わんばかりにむっちりとしたドシコリティーモンドセレクション金賞級の二の腕を持つメイドさんを見つけたのだった。


 そう、それはまさに例えるならばマッターホルン。美しくもキレのあり幾多の「君のお父様とは昔からの知り」挑戦者を嘲笑うかの如く。難攻不落とまで思わせる絶望的な肉厚感。しか「元から変わり者だったが今度はべレナスで強t」しそれを1度制覇すれば唯一抜きん出て並ぶものなし、周りの腕などたかが砂の山。どんぐりの背比べと感じて「なので君をこの学院に」しまうであろう達成感と中毒性を併せ持ち突破したものを更に虜にしてしまう、そんな二の腕を肩出しミニスカメイドドレスというコスプレのような服をただ1人着ることによって晒していた。


 なんなんだその服、1人だけメイド喫茶から来たのか?解釈違いも甚だしい今夜二、三度は使ってやる。


「そういう訳だ、これから頑張ってくれたまえ。君には期待しているよ」

「はい!任せてください!」


 なんか言っていたらしいが期待には答えるべきであろう、げんきよくおへんじしておいた。横のミナミも熱い視線、もとい白々しい目で俺を見ていた。お前はメドゥーサの幼少期か、そんな性の魔獣を狩るような目で俺を見るな。乱暴だな君は!


 失礼しますと残し退室する、気がつけばマッターホルン様のおかげで緊張がほろほろにほぐれていた。一種の性感マッサージに違いない。よく顔は覚えていなかったのを悔やまれるが飛び抜けた二の腕にあの服装をしているのだ、次会う機会はいつでもあるだろう。


「ちゃんとお話聞いてました?」

「大丈夫だ、自信ならある」

「その根拠は?」

「古今東西長のつく役職の人の話は聞くだけ無駄だという長年の経験による帰納的推論によって俺の推理がだな」

「はあ…ほら次は演説です、世の大富豪に恥ずかしくない立派なのを頼みましたよ」


 嫌すぎる。にしてもこいつ段々俺の扱いが上手くなって来てる気がするが気のせいか?


「なあそれいる?どうせつまんない話しか出来ないし普通にヤなんだけど」

「ここのお嬢様は娯楽に飢えてるんですよ、ネットも雑誌もないですしテレビはここ専用のケーブルが繋がれて本も厳重なモラルチェックを通り抜けたものしか本棚に並びません」

「チェックってどんなの?」

「詳しくないですが貴方のやっているスマホゲームのような表現は軒並みアウトですよ」


 ああ生まれ変わる度に重ねた温もりを探していたのに…なんだここは、鳥かごじゃないのか?カスミは絶対に許さない。


「まあそんな訳で一般殿方が来るぞ!みんなで何かしたいことはあるかな?アンケートで51%を取得したのがこの演説という体のいい質問コーナーなんです。諦めて下さい」

「残りは?」

「鞭打ち、蝋燭、それから…亀甲縛り?と一人人間ムカデごっこにそれぞれ10%、あとは無効票ですね。ほとんど意味がわかりません」


 こえーよお嬢様。ふざけるな、あと一歩で金持ちの道楽に付き合わされる事になっていたのか。冗談じゃない俺がそんな変態だと思うなよそもそも俺はそんな真性の変態では決してない。お嬢様に囲まれてムチに打たれつつ蝋燭を垂らされ縛られるなんぞ人生に十回程で十分だ、ぜひ堪能してみたい。


「まあ軽い自己紹介とあいさつ、あとは質問は?と挙手制にすれば勝手に進むでしょう、そんな緊張しなくて大丈夫ですよ」


 やっぱりオカンだ、盛大に安心した。今日帰ったら膝枕と耳かきを懇願しとどめに土下座してみよう、多分してくれそう。


「さ、会場に向かいますよ。広いのではぐれたら二度と会えませんからね」


 んな訳あるかい。


 今日は一日こいつの後ろを追っかけているなと興奮していたら階段を登って(パンツは白だった)二階の連絡通路を渡っていた。一階からはよく見えなかったが窓から外を見るとだだっ広い庭園がしばらく続いたあとは山と森林に囲まれていた。なるほど場所も不明とはこの事か、スマホも圏外だったし正にクローズドサークルって奴だろう。フフッ、何言ってんだろ俺。


「顔が気持ち悪いです、何止まってるんですか」


 へいへい。



 しばらくついていくと比較的簡素な扉の前で止まる、入ると先ほどと変わりビジネスホテルの通路のようになった。メイド用だったりするのだろうか。かなり枝分かれしておりなるほど、二度と会えなさそうだ。


 また進み別の扉で止まる、中に入ると内側がモコモコしていた。映画館とかで見たことあるなこんなんと思いながら薄暗く狭い道を進んでいくと劇団のノンフィクションドキュメンタリーで見た事ある楽屋っぽい所に着いた。


「そろそろ生徒が登校してくる時間です、混乱を防ぐために二時間ほどここにいてください。開演四十分前になったら軽く髪のセットと服装を整えます。では後ほど」


 いーやーだー本格的に逃げ出したくなってきたよし逃げよう今ならまだ間にあ『ガチャン!』今のうちに発声練習でもしておくか…

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