章年
エリー.ファー
章年
大げさな話をしようと思う。
誰にも聞かれることのない秘密の話だ。
あそこに見える宝島には、実は何の宝もない。
本当さ、何一つない。
実は砂粒もなければ草木もない、水も、空気も、光も闇もありはしない。
でも、そこには島がある。
そこでは愉快な音楽がいつだって流れていて、ひとによってはそれが聞くに堪えないものなのだそうだ。何故かって、単純さ。
皮肉なんだと。
明らかな皮肉に聞こえるんだと。
そこまで元気よく音が跳ねまわって捕まえられないほどだから、その場所の殺風景さと相まって、まるで遠くから自虐を繰り広げているように見えるんだと。
随分と滅茶苦茶な話だと思うだろう。
私もさ。
なんだって、そんなところのことを頭の中の記憶の要領を犠牲にしてまで覚えておかなきゃいけないのか、仮に覚えておかなくても知っておかなきゃならないのか。
そんなことばっかり考えてしまう。
複雑な事情なんかありゃしないのさ。
ただ、それは常識であって知識であるもんだから、とりあえずという側面が強いみたいだ。
何もかも忘れてしまえるように、そういう心で生きてきたのに今じゃ独りぼっちが寂しくて仕方ない。
だから。
だからかな。
あそこにある、島がどうしても視界に入ってしまってしょうがない。誰も見ていないのに、私だけが見てしまって恥ずかしいくらいなのにやめられない。
いつかあの島のことを誰かに伝えようかな。
そうしたら、私だけじゃなくなるから寂しくはないだろうし。
でも、その頃には伝える相手も失ってしまうほどの時間が過ぎ去ってしまうだろうなぁ。
これはいけないよ。
これはいけないことだ。
どうか、誰かに伝えておくれ。
そして。
私の影と歯を爆弾の横にそっと置いて、消し去ってしまってくれ。
お願いだよ。
君にしかできないのさ。
お願いしたからね。
頼むよ。
あの島には何かしらの宝物がある。
それは分かっているんだ。
しかし。
あそこに近づくこと自体が非常に難しいよく考えてもみればいい。
多くの問題を解決するために必要となる経費、それらを補っても余るほど価値のある宝物であるかの確証はない。
ということは、ここでこのように考えを巡らせていること自体間違っている可能性も高いと言える。
だって、そうだろう。
私は無駄なことはしたくはないし、それは貴方だって同じはずだ。
できるかぎり効率的に、そしてできる限り傲慢に行うには今の状況は全くと言っていい程適切とは言えない。
何もかも失ってしまうようなそんな無鉄砲さを持つことができるほど、私は決して強くはないし、浅はかでもない。失ってしまったリスクと、抱えることになってしまったリターンの重さで、今日も私の足は自由に動くことはできない。
だから託してしまった。
自分の思いも、これからの未来も。
本当だったら私が私の責任の中で、私の行動によって作り出すはずのものだった。
今はどこにもない。
私の中にも、そして、貴方の中にも。
この世のどこにもない。
霧散してしまった。
宝物だったのに、宝箱の中にはしまえない、不都合なものであったはずなのに。
私はあの宝島のことは忘れてしまおうと思う。それが欲し続けたことによって行きついた結論だ。
迷うべきではなかった。
しかし。
もう迷いはないのだ。
章年 エリー.ファー @eri-far-
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