とある商人の日記
今の私にとって長距離移動は苦では無いが、さすがに遠くまで来たなと感じる。
パイロ大陸の南東にあるイゼリフ王国。
その王都ショルヘから更に南東に進んだ所にその村はあった。
アルクールという名前の通りの牧歌的な村は、その日も何の変哲も無い1日を送っていた様で、住人達は夏の日差しを浴びながら何をする訳でもなく過ごしている様だった。
商売をするつもりは無かったので、すれ違った村民には旅人だと名乗りって必要以上の接触は避けた。目的の家の扉を叩くと、老婆が出て来た。最初は不審がっていたが、私を紹介した男の名前
を出すと、態度が一転して部屋に招き入れてくれた。
訪問した時間帯が良かったのか、丁度焼き上がった所だと言ったので、1口頬張ってみたのだが、衝撃が頭を貫いた。職業柄、様々な美食を味わって来たが、まだ私の舌を唸らせる絶品がこんな村に隠されていたとは世の中とは広いものである。
改めて身分を明かし、このパニスの製法を売って欲しいと懇願したが、売るまでも無く勝手に使用して良いと言われた。それでは商人としての矜持が廃ると言う事で、売上の1部を還元する契約書
を交わしてもらった。わざわざこんな辺鄙な所まで来た甲斐があったと言うものだ。
ゆっくりしていけと言う老婆の誘いを丁重にお断りし、村を後にする事にした。
帰りすがら、村の中央にある広場で何やら露店を開いている男が居た。何か買っていけとうるさいので物色していると、それはあった。
思わず手に取り舐め回す様に見たが体全体が歓喜で震えるのがわかった。もしかしたら私はこれに出会う為に生まれて来たのではないだろうかとすら思ったのだ。
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