一目惚れさせた君の負け

‪ふるとり

第1話

「香菜、聞いてる?」


中学からの親友、万理華の声ではっとなる。

私、遠藤香菜えんどうかなは度々感じる視線に悩まされていた。


「ごめん、万理華、なんの話だった?」


「次移動教室でしょ!もう行くよ!」


私たちは移動し始めた。


高校に入学して数日。学校の登下校、お昼休みなどに視線を感じる。勘違いだったらそれでいいけど…


「あれ、視聴覚室ってここじゃなかったっけ?」


「…正直覚えてないや」


2人もいて迷子になるとは。


「香菜ちゃんと万理華ちゃん。どうしたの?」


「あ、伊吹先輩!視聴覚室の場所がわかんなくて…」


浅井伊吹あさいいぶき先輩。

入学式の時に私に落し物を届けてくれて、それから校内ですれ違ったりする時には挨拶をしたり、会話したりする仲だった。


「ラッキーだね、香菜。授業間に合いそう。」


考え事している間に話は進んでいて、伊吹先輩が視聴覚室までの道のりを教えてくれたようだった。


「それじゃ、またね」


「あ…ありがとうございました!」


急いで頭を下げる。正直私は伊吹先輩が気になっていて、それを万理華もわかっている。


視聴覚室に無事着いて、万理華が口を開く。


「それにしてもさっきの先輩、タイミング良かったね。場所も分かったし、香菜は好きな先輩に会えるし、迷子になって得したかも。」


「ま、まだ好きとかそういうのじゃ…」


「もう、照れなくてもいいのに。」


そういえば、私が視線を感じるってことは、ほぼ一日中一緒にいる万理華も感じてておかしくないよね?


「ねえ万理華、聞きたいことあるんだけど…高校生活始まってさ、時々誰かに見られてる感じしない?」


突然の私の話に万理華は驚く。


「うーん…そんな感じはしないけど…どうしたの?何かあった?」


「その…最近、登下校とか休み時間とかに視線を感じるんだよね、万理華といつもいるから、もしかしたら万理華もかなって思って。」


「え…全然気づかなかったよ、それは怖いね…とにかく、次視線を感じることあったら教えて?」


「うん、わかった、ありがとう。気持ち楽になった。」


あっという間に放課後。今日は特に感じることは無かった。安堵したのもつかの間、


「香菜、帰ろ!」


「う、うん。万理華…」


万理華は一瞬で察してくれた。


「周りみたけど特に怪しい人はいなさそうだよ…とりあえず学校出よう。」


そう言い学校を出ようとする。


「2人とも今帰り?」


突然の声に私は驚いてしまった。伊吹先輩か…


「香菜ちゃん体調悪そうだけど、大丈夫?」


「香菜、伊吹先輩に相談してみる…?」


確かに、入学したばかりで信用できる人があまりいない今、相談してみるのもいいかもれない。


「うん。あの、先輩、今時間大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ、何かあった?」


私は手短に説明した。


「そっか…香菜ちゃんと万理華ちゃんは家の方向一緒?」


「いえ、少し歩いたら逆方面なので…」


「それなら、僕が香菜ちゃんのこと送っていくよ。登下校でも感じることがあるならその方が安心でしょ?」


「えっ、でもさすがに申し訳な…」


「香菜!これはチャンスでしょ、素直に甘えなよ。」


小声で万理華が言ってくる。本当にいいのかな…?


「そ、それじゃあ、お願いします…」


「うん、どうする?早速帰ろうか?途中まではもちろん万理華ちゃんも。ごめんね、2人とも送れはしないから。」


「私は全然!それより香菜ですから。」


私たちは帰り道を歩き出した。


「それじゃあ、私はここで曲がるので。香菜のことお願いします。じゃあね、香菜!」


「ばいばい!」



香菜が居なくなって先輩と2人きり。少し…いや、かなり緊張していた。


「そういえば、先輩は何部なんですか?」


少しでも先輩のことが知りたくて聞いた質問だった。


「帰宅部。1年の頃はサッカー部だったんだけど、途中でやめちゃった。香菜ちゃんは?部活入るの?」


「私も、帰宅部です。万理華も帰宅部だし、沢山遊びたいし。」


「そうだよね」


そうこうしているうちに家に着いた。


「家、ここ?」


「あ、ここです。ありがとうございました!」


「なんもだよ、問題が解決するまでは送ってくから、あ、連絡先交換しよう?」


「は、はい!」


「ありがとう、それじゃあまた明日。」


連絡先交換できちゃった。急いで万理華に報告する。学校で視線を感じたこともこの時ばかりは忘れていた。なんの問題も解決していないのに、先輩との時間が増えたことが嬉しかった。

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