僕は君の笑顔がまた見たい、いつもそばにいるよ

拉麺美味

プロローグ~風と君の笑顔~

僕は風だ。

人は僕のことを風という名前で呼ぶ。


名前はついているのに誰も僕のことは知らない。

人には名前がついていて人と人はお互いに名前を呼びあったり話をして笑いあったりしている。

僕は誰も話してくれないから、いつも孤独で寂しい。


そんな僕の寂しさを埋めてくれるのは人の笑顔だ。


僕は人の笑顔が大好きだ。

ずっと昔から人と共に過ごしてきた。

共に歩んできた。


人の暮らしも豊かになり、科学も進歩してどんどん便利な世の中になっているのは見てきたからわかる。


人は凄いと思っているんだ。

寂しく思うのは僕が人と話すことが出来ないだけじゃない。


便利になるにつれて、人は目に見えないものを信じなくなってきている。


目に見えるものが全てだと思っている人もいるみたいだ。


前は僕がビューっと吹くだけで季節の移り変わりや自然の素晴らしさを感じてくれる人も多かったんだ。


僕が怒っている時は、僕の気持ちが静まるように願う人々もいた。

その願いがわかったから僕も穏やかになれた。


共に歩むというのが当たり前だった。

みんなの笑顔も便利な世の中になるにつれて減っていった。


今は僕に君たちのように意思があって君たちの笑顔を見て幸せな気持ちになりたいと思っていることを考える人はいないと思う。


もっと僕のことを知って欲しい。

僕のことは君たちには見えないと思うけど感じて欲しいんだ。


そんな僕にも楽しみが出来た。

冬が終わり、春の訪れをみんなに知らせにまわっている時だった。


笑顔がすごく可愛くて周にも笑顔が溢れてキラキラ輝いているような女の子に出会ったんだ。

その子の無邪気な笑顔は僕の心にも潤いと幸せを運んでくれた。


その子に出会ってから、僕は気になって気になって何回も会いに行ったんだ。


その子は外で遊ぶのが好きだったから僕も直ぐに会いに行けた。


ある時は綺麗に咲いた花の甘い香りを届けたり、暖かい風で包んであげたりもした。


その子も喜んでくれた。


外でシャボン玉を作って遊んでいた時は優しい風でシャボン玉が壊れないように運んだ。


嬉しそうにはしゃぐ笑顔が見れて僕は幸せだった。


やがて春が終わり夏が来た。

夏という季節は僕にとって暇な季節だ。

気温が高くなるから、あまり仕事はしないようにしていた。


熱風ばかりだと君たちが可哀想だから、なるべく穏やかな風をおこすようにしている。


僕にとって夏休み


あの子に会いたくて、こっそり会いに行った。


暑い日だったけど、外で元気に遊んでいた。

ジリジリ照り付ける太陽を浴びて汗だくだった。


涼んでもらえるように誰かが手放した風船を近くの木陰に動かした。


その子は嬉しそうに風船を追いかけて木陰にきた。


木陰に入ったことを確認して風をおこした。

その子は気持ち良さそうにしていた。


その子の為に何かをしてあげられたことが僕にとって嬉しかった。


僕はその後、どんな季節になっても、その子にとって最善の風を届け続けた。


その子も僕のことを感じてくれているように春には暖かい風に喜び、夏は木陰で涼み、秋には落葉がひらひらと舞うダンスを見て、冬には雪の冷たさを肌で感じて、楽しんでくれた。


僕はその子と一緒にいられて楽しかった。

僕たちはお互いに通じ合っていたと思う。


ある冬の日、その子はお父さんとお母さんに

手を繋がれて外を歩いていた。


[今日は風が冷たくて寒いね。

せめて風が無かったら少しは寒くないかもしれないのになぁ。

風なんか吹かなきゃいいのにねぇ。]


とお父さんがその子に言った。


僕は少し悲しくなったが、人間にとっては風はそういう存在で、そう思われるのは仕方ないとも思った。


その子はお父さんに対してニコニコしながら言った。

[パパ、風さんにそんなこと言ったら風さんが可哀想だよ。

風さんは暖かい風でぽかぽかにしてくれたりするし、一所懸命やってるんだよ。

学校の先生も人のことは悪く言っちゃいけないよって言ってたよ。


人には良いところも悪いところもあるけど、悪いところよりも良いところを見るようにしようねって言ってたよ。


だからあたしは風さんのこと好きだよ。]


僕は凄く嬉しかった。

僕を人と同じ気持ちで見てくれたこと、好きって言ってくれたこと。


その子の素直で純粋な心に僕は惹かれていった。

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