異世界、九十九人斬り

五十嵐文人

A:第1話

 独酌どくしゃくみ続けて朝、私は広大な野原で目を覚ました。

 私の名前は、斬谷きりたにきざむ。歳は二十五。正義感に溢れて、曲がったことは許せない……そこまでは覚えている。そこまでは覚えているのだ。


 まるで生まれてから、ずっと酩酊しているかのような気持ちだった。

 記憶だけあるのに、こうやって体を動かすのは初めてのような、とにかく不思議な感覚だけがそこにあった。その感覚が、異世界に転生した時の魂の動揺だと気づくのは少し後になってからだった。


 冷静に思考すると、この場所が神秘的な輝きをもっていることに気づいた。見渡すか限り原っぱと岩のみで構成されている空間は、RPGの序盤のフィールドのようだった。ここはどこだ。


「おぉい、やめてくれー」


 振り返るとそこには、気弱そうな男が縄で縛られて座っていた。その横には、それはそれは恐ろしい顔をした悪者がこちらを睨みつけていた。悪者らしき男は、縄で縛られた男の首に刀を突きつけている。

 彼は、私を見て声を荒げた。

「なんだお前は、ここらでは見かけねぇ顔じゃないか」

 しばらくの間、沈黙が続く。

「まあ、お前が誰だろうと関係のない話よ。我々に歯向かうような人間は殺してくれるわ」

 悪者は刀をこちらに向けて、私の元に走ってくる。

 どうする? どう立ち向かうべきだろうか? このままでは、殺されてしまう。私は必死に考えた。

 その時、縄で縛られていた男が声をあげた。

「下を見てください!」

 そこには「斬れ」と言わんばかりの、美しい日本刀が私の足元に置かれていた。私は、その日本刀を正面に構えて、悪者に構える。彼は猪突猛進ちょとつもうしんで向かってくる。私は冷静に身体の本能のまま刀を振り落とした。


 スパン! ……首をねた。


 残り、98人。

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異世界、九十九人斬り 五十嵐文人 @ayato98

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