婚約から始まる物語を、始めます!

無乃海

序章 ~悪夢の始まり~

プロローグ ≪New乙女ゲーム開始≫

 「いらっしゃいませ!お客様、こちらの空いているお席へどうぞ。」


私は今、カフェレストランで働いている。ここで働き始めた当初は、失敗ばかりしていたけれど、前世の記憶がある私は、前世に生きていた頃に、ファミレスで働いたこともあったから、暫く身体を動かしているうちに、前世で働いていた時の勘が戻ってきたようである。


最初は、前世でいうところのバイトみたいな待遇だったけど、今はお店のバイトに教える立場にある。所謂、前世の言葉で言えば、正社員に昇格したようなものだと思う。前世でも今世でも色々あったけど、私はこうして働く方が、性 しょうに合っているみたいだな…。一度は…お貴族様にはなったけど、しきたりとか礼儀とかが、色々と五月蠅過ぎるし、私…前世からそんなに頭が良くないから、覚え切れなかったんだもん。子供の時からならだしも、途中から貴族になっても、ついていけないんだよねえ。まあ、だけど。


今は、両親からも勘当された状態だし、父方の実家のお祖父じいちゃんの養女になったから、今は商家の娘なんだよね、私…。でもさあ、こっちの方が、私には合っているみたいだったんだあ。…うん。これで良かったんだよね…。両親はあの貴族の家で幸せになれたし、私もある意味、肩の荷が下りた感じで、ホッとしている。


今の私は、それなりに幸せなんだよね。これで、本当に良いのかな?…罰を与えられたはずなんだけど、こんな罰ぐらいで…良いのかな?…私、フェリシアンヌ様の婚約者を盗ったのに。でも、ハイリッシュ様も罰を受けたんだよね?…どういう罰を受けたのかは、あまり詳しくは聞かされていない。ハイリッシュ様も平民扱いになったとは、噂で聞いている。生まれた時からお貴族様だから、大変だろうなあ。あの人は、何も努力しない人だったし、今の生活は辛いだろうね、きっと…。


ハイリッシュ様には本当に申し訳ないけど、私は…彼のことは本気ではなかった。と言うか、誰のことも…本気ではなかった、と思う。要は、王子と結婚するのが目的だったのだ。単に…王妃になりたかったんだよね。お姫様は王子様と結婚して幸せになりました、という、唯々…憧れていた私。乙女ゲームのヒロインになって、選ばれた気になっていたんだと思う。


国のトップの王様のお嫁さんになって、王様から溺愛されて、最高の幸せを手に入れたい、そういう夢を…見てしまった…。国母と呼ばれて、国民や貴族から慕われたかっただけ、なのかもしれない。でも…最近漸く、自分では無理だったのだと、理解出来るようになった。貴族らしい礼儀もしきたりも覚えられず、勉強もついて行けなかったような娘が、王妃になれるどころか、王子と結婚することさえ、全く認められなかっただろう。


王子様には、既に王太子妃様がおられるので、私は王子と恋愛したところで、妾にしかなれなかったことも、漸く理解したのだ。王太子妃様は隣国の王女だった人なので、例え…フェリシアンヌ様でも、正妃にはなれないのだと聞いた時は、驚いてしまった。そのぐらい、この世界では、身分の違いはのだと。


私は今まで、前世と同じように考えていたし、乙女ゲームの世界なんだから、やり直しが利くと思い込んでいた。然も、私はヒロインなんだからと、何をやっても許されるのだとも…。本当に、自分本位の考えであった。自分のことだけしか、考えていなかった。前世でもそうだったけど、現世では…それでは通らないことも、あるのにも拘らず…。


今更だけど一応、自分が悪かったと思っているし、反省もしている。それでも、遅すぎたとは思っていない。まだやり直しが出来る、と思っている。別に…貴族に戻りたい、と思っている訳じゃないし、玉の輿を狙っている訳でもないので、責めないでほしい…。人間として、真面目になりたいと、人の為に行きたいと、そう思っているだけだ。前世とは違い、心を入れ替えたいと、現世では思っている訳で…。漸く、此処ここが今の居場所だと、この世界は乙女ゲームと似た別の世界だと、自分でも納得したのだから。


私の行動で、一番の被害を受けられたフェリシアンヌ様には、本当は直接謝りたいと思っているけれど、平民になった今では、彼女に会うすべもなくなってしまっている。謝罪の手紙を出そうかとも思ったけど、きっと本人に届く前に、使用人とかが捨ててしまうだろうなあ。そう気が付いて、今のところ…何もしていない。


今は、彼女も新しい婚約者が出来たと、噂を耳にしたので、そっとして置いてほしい…かもしれない。無理に連絡を取って謝るのは、自分の自己満足にしかならないのだと、謝らない行動を…正当化していた。でも、仕方がないんだよ…。謝るだけが正義ではないと、被害者である…彼女の気持ちを優先しようと、私もこの生活の中で色々と学んだんだよ。


だから、もっと先で謝る機会があるならば、その時こそは…素直に謝りたい、と決意した私…なのである。






    ****************************






 その日は、いつもと違っていた。私は商家の娘として、お祖父ちゃんの仕事の付き添い人として、ついて行ったのである。今日の取引先は、とある貴族のお屋敷であった。…う~ん。あまり…お貴族様には、近づきたくないなあ…。だって…私の正体がバレたら、もう取引してもらえないかも…しれないのに。それなのに…お祖父ちゃんは、どうして私をつれて行くのかな?


そう不思議に思いながらも、お祖父ちゃんには逆らえないので、黙ってついて行ったのだ。意外にも、私のことはバレなくて、案外ともう既に…忘れられた存在なんだなあ、とホッと息をく私。だけど、そのお屋敷の娘さんを見た途端に、私は…嫌な気分が襲って来て。…ああ、これって、前世の記憶を思い出す時の感覚だ…。そう気が付いて…。一気に眩暈がするぐらいの情報が、頭の中に押し寄せて来る。


何とか…我慢したけれど。こんな所で倒れたりしたら、せっかくバレなかった事実が、バレてしまうかもしれない…。そう思って、一生懸命に我慢した。私にしては頑張ったと、自分でも思うよ…。


家に戻ってすぐ、お祖父ちゃんには気分が悪いと、休ませてもらう。実際にまだ…気分が悪いんだよね…。その後部屋に戻ると、直ぐにメモを用意して、思い出したことを全て書き留める。そうして分かったことは、どうやら私はまた、乙女ゲームの内容を思い出したみたいなのだ。この世界に似た乙女ゲームの続編を。


私…また主人公(=ヒロイン)なの?…思い出して直ぐは…そう思ったけれど、どうも違っているらしい。私は今回、この続編には一切出て来ないのだ。ちょっとだけホッと…したかな。登場しないということは、その他モブの存在かそれ以下だ。


ヒロインでも悪役令嬢でもなく、何の役割がないというのは、こうも…気が楽なんだね…。前の時は、ちゃんとヒロインの役割をやらなきゃ、ヒロインになれなくなる…とか、思っていたもんね。今回は脇役でもないから、だろう。それでも、今書き留めた内容に目を通して……。ハッとする私…。


本当に…このままで、いいの?…自分が登場しないからって、ただ…見ているだけで、いいの?…何も出来ないのではなくて、何か私にも出来ることが、あるんじゃないの?…このまま見ているだけなら、後で後悔することになるんじゃないの?


頭の悪い私でも、一生懸命に考えた。自分に出来ることが、何か…あるのではないのかと。後で…何て言っていたら、絶対に自分が後悔するから…。偽善者なのかもしれないけれど、だからと言って、見ていて良い理由には、ならないじゃない…。今回は、私が加害者にはならないけれど、ただ見ているだけでも、加害者と一緒なんだって、前世では虐めの首謀者と同じだと、メディアがそう放送していたよね。きっと私にも、何か…筈だ。今はまだ…それが何なのか、全く分からないけれど。それでも諦めなければ、何かが思い浮かぶかもしれないわ。


そうして何日も考えに考えて、そして悩みに悩んで…出した結果は。以前の私では考えられない程、素直になった私は。自分の中で生まれた正義を、貫くことにしたのである。それが、誰かに嫌われる行為であろうとも、拒否されるかもしれなくとも、私は…自分の正義を、のであった。


簡単に言えば、フェリシアンヌ様に連絡を取ること…である。今回の乙女ゲームにも、フェリシアンヌ様は登場されていて、それが今回も…悪役令嬢役なのであり。再び…そうなるのか…。フェリシアンヌ様は、呪われているのかな?…ちょっと気の毒に思ってしまう。


そして今度は、新しい婚約者様も、続編のゲームの攻略対象キャラなのだと、私は前世の記憶で知ったのよ…。思い出した続編では、お2人は婚約者ではなかったけど、前編のゲームでの出来事は、全てなかったことになっていて、但し、フェリシアンヌ様だけは、蘇ったという設定で。要するに、鬼畜な設定なんだよね…。


だけど、嘘みたいな設定でも、現実の世界で続編のヒロインを直接見てしまえば、何が起こってもおかしくない…と感じた。あのヒロインが転生者ならば、特に。


そして、フェリシアンヌ様の新しい婚約者と噂された、アーマイル公爵子息のルートでは、彼がヒロインと結ばれると、彼からのフェリシアンヌ様への復讐がある。それも、ハイリッシュ様ルートの比ではないぐらい…。…うっ、ブルッ。(※青くなった顔で、身震いをする)


現実のアーマイル公爵子息は、ハイリッシュ様とは違うと思うけど、私は彼女には謝って、お詫びとして…出来るだけ手助けしよう、そう…決心したのであった。






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※本日から、新しい連載が始まります。乙女ゲーム婚約破棄シリーズ第4弾です。

 こちらは、『婚約破棄から始める物語を、始めましょう!』の続編となります。

 タイトルを変えて一新し、新しい物語として始めました。 


第1弾時より長めの作品となる予定で、期間は設けておりません。一応は、前作品を読まなくても分かるよう、工夫はしていまして、初めて読んでくださる人にも、第4弾だけ読むことも可能です。但し、前作品のネタバレ要素がありますので、先に読まれる場合には、ご注意を。


本編は、主に第三者視点としています。番外編等は、その限りではありませんが。プロローグは、番外編と同じ扱いとしています。何故か…第1弾時の『ゲームでのヒロイン』視点から、始まりました。



※本日はお読みくださり、ありがとうございます。第1弾の『婚約破棄から始める物語を、始めましょう!』が好評でしたので、第4弾には…第1弾の続編を、書くことに致しました。宜しければ…ですが、第1弾はまだ…という方々には、先に第1弾を読まれるように、お勧め致します。ネタバレ要素がありますので…。

 

今後も、応援してくださると嬉しいです。よろしくお願い致します。

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