第7話 彼女の嗜好

 これは彼女の、一方的でしたたかな、意思のない策略だ。僕はなんともいえないもどかしい気持ちになって、身体の奥底がムズムズとしてきた。

 彼女は僕の外壁﹅﹅を指でなぞり、そこで見つけた穴から僕の内側に向かって湿った吐息を吹きかけた。

 そして、痕が付くか付かないか試すように、悪戯にそっと爪を立てる。

 立証しようが無い接触だ。もし、僕が冗談めかして彼女を非難したとしたら、彼女はきっとこういうだろう。


「……そんなこと、してないよ」

 

 そう言って僕を突き放して、傷ついた反応を見て笑うだろう。自分に惚れている男をもてあそんで、突き離しては引き寄せて、自らの母性本能をくすぐらせて遊ぶ。それが彼女の嗜好しこうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る