すみれおばあちゃん

 その日は学校が終わると、ごんちゃんの家で、おばあちゃんのすみれが待っているから来て欲しいという事だった。

 ももは学校が終わると、鬼王幼稚園に向かいさくらをお迎えに行った。

 そして、二人でごんちゃんの家に向かった。いわゆる神馬家の本家だ。

 幼稚園からは大した距離ではないが、ごんちゃんの家は、自宅とは反対方向にある。

 街中を流れる野川の土手を歩き、程なくすると一面の畑が見えてきた。

 畑にはトウモロコシやキュウリ、カボチャにナス、スイカにそれはもうあらゆる野菜や果物がびっちり植わっていた。

 ごんちゃんは自分が育ててる自慢の畑だと触れ回っているが、実質は妻のすみれが的確に育てている事は、町中の誰もががみんな知っていた。


 すみれはごんちゃんの頭が上がらない一番の人物であり、無くてはならない重要な片腕だ。


 ももとさくらは、すみれおばあちゃんに会うのが大好きだ。いつもオヤツや冷たい飲み物を用意して待っていてくれるし、なにより優しい。


「今日のおやつは何だと思う? 」

「冷たーいスイカかも」ももに手をつながれたさくらが言った。

「うーん、ももは、採りたてトマトだと思うな」

「ラムネあるかな」

「あるかもねー」


『うふふ、うふふ…』ルンルンの二人だ。


 でも今日のおやつは、『鬼もち』だった。ここら辺の名産でネーミングのイメージとは全く違い、白くてふかふかの丸い小さな団子で、口に入れるととろけてなくなる。鬼王神社の宝玉を模したおもちだ。

 ──二人とも大好物だ。


『いただきまーす』


 おばあちゃんと差し向かいで、虹色に光る貝殻で模様が作られたラデンの装飾が美しい黒い座りテーブルを囲み、開け放した縁側からの風を感じて、ももとさくらはいい心地だ。

 座った足に感じる畳の感触も二人は大好きだ。

 ごんちゃんはこの時間、町役場の町長室で仕事をしているのでいない。

 さくらが鬼もちを食べる。

「あまーいとろけるー」

 ももが食べる。

「うふふ……」

「たんとお食べ」すみれはニコニコそんな二人を見ている。

『うん』

 テーブルのお皿には、山もり鬼もちがもってある。


「ラムネも飲むかい? 」

「えっあるのー」さくらが嬉しそうに言った。

「えーえーありますよ。ないわけないじゃない、二人が来るのに」

『やったー』

「もも、冷蔵庫から持って来て」

「はーい」

 ももは嬉しそうに台所へいくと冷蔵庫を開けた。ラムネは何本も入ってた。

「さくら、何色? 」

「ピンクー」

「じゃあももは青にしよっと」


 ──ボトルとキャップの色が違うだけである、どれも中身は変わりない。でも選ぶのが楽しい。


 ももはピンクと青のラムネを取ると、戻った。

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