勇者召喚されましたけど、メンバーに勇者が居ませんでした

はとむぎ

最終話 わたしたちの戦いはこれからだ

「おお、よくぞおいでくださいました、勇者様方。何卒、我らが世界をお救いください」

 10人ほどの人物たちの中で、最も豪華な衣装をまとった老人が、こちらに向けて述べた。


 街中で突然、引っ張られるような、浮き上がるような気持ちの悪い感覚に襲われ、気が付けばここにいた。

 石造りでやや寒々しい雰囲気の部屋の中、床には"マジか!"と叫びたくなるような巨大な魔法陣らしきものが描かれている。そのすぐ外側に、先ほど声をかけてきた老人──、いや、この際"王様"と言ってしまおうか。王様と数名の側近、さらに彼らの護衛らしき人物たち含め、10名ほどがそこには立っていた。


 これはもしやアレですかね、わたし召喚されちゃいました!?


「こ、これはどういうことでしょうか」

 横合いから耳障りのよい声が響く。そう、おそらく召喚されたのはわたし1人ではない。魔法陣の中には、私含めて4人が居た。

「いきなり世界を救えと言われても……」

 先ほどと続けて声を挙げたのは、見たところ"さわやか系イケメン"。やや色の薄い頭髪を耳の上程度で揃えた清潔感のある髪型。整った顔立ちは癖が無く、纏う雰囲気はうっすらと輝いて見えるようだ。うーん、眼福。


「こりゃどういうこった? オレは街中に居たはずだぜ?」

 少々荒げた声を挙げたのは、一見すると"オレ様系イケメン"。茶髪を短く切りそろえ、片耳にはリングのピアス。彫の深い顔立ちにも力強さを感じる。やや強引さを感じるけど、グイグイ来られたらクラっとしちゃうかも。眼福眼福。


「いわゆる異世界転移と言うやつでしょうか。まさか現実に、そのような事態に遭遇するとは……」

 少し硬質な声を挙げたのは、パッと見"インテリ系眼鏡イケメン"。頬が隠れそうな、やや長めの黒髪に、細めの眼鏡。切れ長の目には高度な知性を感じさせる。だけど滲みだす空気にはインテリ特有の嫌味がない。うむむ、こちらも眼福。


「今、この世界は荒れ果て、滅びの危機に瀕しております。そこで、"真に強き者"にしか辿り着けぬという遥か西方の地へ赴き、"救世の品"をお持ち帰りいただきたいのです」

 王様が頭を垂れ、わたしたちに言う。そこは"魔王"を倒すとかじゃないのね。


 何と答えるべきか、わたしがまごついているうちに、再び横から声が挙がった。

「ちょ、ちょっと怖いですけど……、でも僕にできることならっ!」

 うはっ、さわやかイケメン、マジイケメン。その上"僕っ子"とか!! 訂正しよう。さわやかかわいい系イケメンだ。ゴチになりますっ!

「旅は道連れって言うしな! オレも手伝うぜ!」

 オレ様系、さすが大長編だと"良い人補正"かかるよね!!

「あなた方だけでは不安ですね。仕方がありません。私も同行しましょう」

 インテリ系素直じゃないよ! でもそのツンデレぶり、イイネ!!

「あ、わ、わたしも、その、あんまり自信ないんで、出来る範囲でサポートを……」

 おいこら王様一同、「アレ、居たのか?」みたいな眼で見るなやゴラァ



「では早速ですが、皆さまの"職業適正"を確認させていただきます」

 側近の一人が台車に乗せた水晶玉を運んできた。

「お1人ずつ、この水晶に手をかざしてください」

 これは、異世界名物の"ステータスチェック"ってやつですね、わかりますっ! なんだかテンション上がってきた!!


「じゃ、じゃあ、僕から」

 お、さわやかかわいいイケメン行った。やっぱりアレかな、『一見臆病だけど、ここぞという時は勇気を発揮』的な雰囲気あるし、やっぱり──

「僧侶ですね」

「勇者じゃないのかよ! 明らかに"勇者"っていう空気だったよね!?」

 王様一同に「なんだこいつ?」的な眼で見られる。くっ、予想外の結果に思わず声が出てしまった。


「では、私も」

 メガネをクイっと持ち上げつつ、メガネイケメンが言った。よし、次は動じないぞ。

凶戦士バーサーカーですね」

「知的なイメージゼロ!? いや、そこは"賢者"じゃね!? 百歩譲って"魔法使い"でしょ!?」

 再び降りかかる冷たい視線。ぐぬぬ。


「よっしゃ、次は俺だな!」

 オレ様君だ。こ、今度こそ動じないんだからね!!

「人魚ですね」

「あ~ん、水被ったら足が魚のヒレになっちゃう~、なわけあるかっ!! なんだよ"人魚"って!! 職業ですらなくなっただろうが!!」

 くそが! 全員無視してやがる! 反応されないのは、それはそれで腹が立つ!!


「こほん」

 少々取り乱した。よし、いったん落ち着こう。

「さ、最後にわたしが……」

 ここまで、"勇者"が居なかった。もしや、わたしが"勇者"!? どうしよう、うまくやっていけるかな……。

「猿ですね」

「……」



 一同に舞い降りる沈黙の間。



「……。あの、"人"要素すら消えましたけど……。」

「早速、旅の準備をいたしましょう!」

「スルーすんなやゴラァ。明らかに私の方が"僧侶"だろうが。"勇者"をサポートする"聖女"、戦いの中、絆を深めた二人は──」

「"聖女"なんてどこにおるのじゃろうな……」

「そこだけ拾うな!!」

 おい、王よ。そのヒゲ一本ずつ毟るぞ。



「結局、勇者がおらぬな……」

「おりませんね……」

 王と側近が何とも言えない表情でこちらを見てくる。いや、そう言われましても……。


 そんな重苦しい雰囲気の中、さわやかかわいいイケメン君がスッと一歩踏み出す。清流を思わせるような流麗さで、優雅さすら感じさせるごく自然の所作で、その両の手が胸の前で合わせられる。男らしからぬ、ほっそりとした手指に思わず見とれ……、合掌?

「苦難もまた、御仏の与えし試練。力を合わせ乗り越えましょう」

「おま、そっちの僧侶かよ!! ファンタジーならもっと、こう、アレだよ! 十字架持ってたり、神の奇蹟を体現するとか、そっちだろ!!」


 わたしたちは、さわやかかわいいイケメン君をリーダーとして、旅立った。

 インテリ系メガネイケメン君は、凶戦士バーサーカーとしての持前の怪力で、迫る妖魔どもをバッタバタとなぎ倒し、様々な武器を持ち換えた結果、なぜか最終的には農具のスキに落ち着いた。インテリに見えたが、実は脳筋だったらしい。

 オレ様系イケメン君は、"魚人化"により全身が魚鱗に覆われ、攻撃力と防御力が強化。その上"呪い"のような特殊な術も使えるようになった。オラオラ系な見た目に反し、意外と知的な部分も垣間見えた。が、結局ほとんど殴る蹴るしかしていなかった……。っていうか、"人魚"じゃなくて"魚人"の間違いじゃない? だって"魚人化"って言ってるし……。

 そしてわたし。"猿"ってなんだよ! と思っていたが、意外にも4人の中で一番力が強く、その上多種多様な妖術まで使うことができたため、いつの間にか仲間の中で準リーダー的なポジションになっていた。なんと、ホバーボードのようなもので空まで飛べる!

 私たちは、結局4人中3人がパワーファイターという、脳筋パーティーだった。

ちなみにリーダーは……


「すべては御仏のお導き……」

 剃髪し袈裟を身に着け、白馬の上で手を合わせた元さわやかかわいいイケメンな彼が述べた。そう、彼は本格的に仏門に目覚めた。今では毎日朝昼晩と読経を挙げ、日々ありがたい説法を頂ける……。


「さぁ、進みましょう。"ガンダーラ"まであと少し。"取経の旅"もあとわずかです」

 砂漠の中、彼の乗る白馬が進み、お供がそれに付き従う。わたしも小走りでその後を──


「これ西遊記だったのかよ!!」



 わたしの声は、茹だるような砂漠の暑さの中に、むなしく響いた。



 わたしの声を聴いたのか、白馬の彼がわたしに振り返り

「浩一郎さん、参りますよ」

「あ、はい、ただいま」

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