第25話 ホストと喧嘩したらしい。
気まずそうに二人が見つめあっている間、俺は思い出していた。
スバルから過去の話を聞いたことはほとんどない。しかしひとつだけ覚えていることがあった。付き合う前、エレベーターで初めてキスをしたあの夜、スバルのことを揶揄していたクソみたいな男たちの台詞。あれがいま、頭の中で再生される。
『こいつ、いまはこんなに華やかに着飾ってるけどよ、学生んとき、先輩たちにいじめられてたんだぜ』
俺はあのとき、その言葉を聞いて、なにを感じていたのだったか。
『女みてーな顔してるから、ふたつ上の先輩のお気に入りだったんだよ。なあ青木昴、おまえ、あの人に好き勝手されてたんだろ?男同士で気持ち悪いと思うよそーいうの。そんなやつがいまじゃNo. 1ホストだなんて、笑っちゃうよな、まじで』
そこまで思い出したとき、俺ははじかれるように月島さんを見た。うつむき気味で視線だけをスバルに向けているその姿はいつもと変わらぬ好青年で、人懐こく嫌味のない彼が、あの男たちの言っていた『先輩』だとはどうしても思えない。絶対に人違いだ。
……じゃあスバルはなぜ、涙をこらえたような、どこか傷ついた顔をして、彼を見つめているのだろう。
◆
「ふたり、知り合いなんですか?」
俺がなにか言わなければらちがあかないと思い、ついに口を開いた。止まっていた時が動き出したように、二人がハッと我に帰る。
「月島先輩、久しぶりですね。優也、あのね、高校の時の先輩なんだよ。会ったの五年ぶりとかだったから、ついびっくりしちゃって……」
「本当、久しぶりだよな。髪の毛とか、色々派手になってるけど、スバルくんだってすぐにわかったよ。驚いたな、相川さんと知り合いだったなんて」
「あの、知り合いじゃないです」
とっさに断言していた。二人が正気に戻ったタイミングで今度は俺が正気を失っている。これが嫉妬なのか? 二人の間にある、目に見えないなにかに神経が逆撫でされているのがわかる。でも、どうしても止められない。
「知り合いじゃなくて、こいつは俺の……」
「友達です!!」
驚いた俺は、最後まで言い切ることができなかった。スバル、いまなんて……
「友達なんです、優也と僕。だから遊ぼうと思って、今、会いに来て。ね、ご飯でも行こうよ、優也」
「……うん」
いま胸が痛んでいるのは、友達だと言われたことに対するショックではないと思いたい。冷静に考えれば、誰彼構わず自分たちの関係を公言するのもどうかと思う。負い目を感じる必要はないが、偏見を持つ人がいるのも確かなのだから。
でも。
出会ってからの間で、今が一番、スバルのことを遠くに感じている。
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