第24話 〈番外編〉ホストなのになぜかお客さんに恋をしてしまい困ってます


「……あたし、本当に夕陽の家に来ちゃった」



リビングでちょこんと正座して、愛衣さんが恥ずかしそうにうつむいている。

ホストになってから女性を部屋に入れるのは初めてだ。そんなことを言っても信じてもらえないかもしれないから口には出さないけれど。

告白して数時間後に愛衣さんが僕の家にいるなんて、頭のネジが3本くらい飛んでしまいそうな状況だ。



「だって、一緒に帰ろうって言ったら、頷いたじゃないですか」

「そ、そうだけど! まさか本当に来ることになるとは」

「僕は本気なんですよ、いつでも」



自分でも、いささか強引だったとは思う。デビルジャムを二人で出た後、どちらともなく手を繋いだ。それをいいことに、そのままタクシーに乗り込み、愛衣さんが何か言う前に自宅の場所を口にした。……そして、今に至るというわけだ。



僕は降参を表すかのように両手を力なく挙げて、宣言をした。



「でも、先に断言しておきますけど、僕は今日、愛衣さんに指一本触れませんから」

「えっ、そうなの?」



じゃあなんで家に連れ込んだのだと言いたげな顔で愛衣さんが僕を見つめる。

アップにした髪はもちろん可愛いし、なにより、ほっそりした首元が綺麗だ。

僕は変な気を起こさないよう、確固たる意志で目をそらした。



「ここでなにかしたら、僕の本気が伝わらないような気がするんで」

「じゃあどうして家に……」

「やっと好きって言えて、愛衣さんも言ってくれたすぐ後に、さすがにバイバイしたくなかったんですよ!!!!」



むきになって言うと、愛衣さんはニンマリとした意地悪そうな笑顔を浮かべた。

腹が立つのに憎めない、いつもの顔だ。



「……とにかく、信じてもらえるように、ちゃんとするっていう話です」

「別に疑わないよぉ」

「でもダメです! 今日は!」

「硬派だなあ。かわいいね、夕陽くん」



僕をいじめたくてたまらない顔をしている愛衣さんに負けじと肩をいからせた。日頃振り回されるのはいいが、今日ばかりは負けるわけにはいかない。



「ねえ、最近店で人気あるの知ってるよ。この家に来たい女の子なんて実際たくさんいるじゃない。いいのかなあ、私、抜け駆けしちゃって」

「なに言ってるんですか。愛衣さん、もう僕の彼女でしょ。僕、彼女しか家に入れるつもりないんで」

「なっ……」



愛衣さんの顔から余裕の表情がみるみる消えて、気づけば真っ赤になっている。可愛い。



「真顔でなに言ってんのっ!」

「違うんですか?」

「そりゃ好きとは言ったけど……!」

「今日はなにもしません。その代わり、またすぐ来てくれますか?」



指一本触れない約束なので、ギリギリまで体を近づけて、耳元で囁いた。



『そのときは自制できないと思いますけど』



「…………」



沈黙の果てに、愛衣さんが小さく、うん、と呟いた。


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